みなさまはSDV自動車をご存じでしょうか。
SDVとは「Software Defined Vehicle(ソフトウェア定義自動車)」の略で、ソフトウェアの更新によって車の機能を増やしたり高めたりすることを前提にした車を指します。
SDVが普及すれば、車で重視される価値観や、車の使われ方が大きく変わるかもしれません。
本記事では、SDV自動車の概要、メリット・デメリット、SDVによってもたらされる未来を解説します。
SDV自動車とは?
SDV自動車はスマートフォンやパソコンのように、ソフトウェアの更新により機能をアップデートできる車を指します。
ソフトウェアはインターネットでアップデートできるため、アップデートのたびに車をディーラーに持ち込む必要はありません。
SDVの代表的な企業はテスラです。
テスラのセダンタイプEVである「テスラ3」は、2018年にアメリカの有名な消費者情報誌である「コンシューマー・レポート(Consumer Reports)」で、ブレーキの性能が悪いと指摘されました。
しかし、わずか1週間程度で性能を改善し、「Recommend(オススメ)」の評価を得ました。
実際のテスト車両に触れることなく、オンラインのファームウェアアップデートのみで改善が実施されたことは、革新的な出来事です。
SDV自動車のメリット・デメリット
SDV自動車のメリット・デメリットを解説します。
SDV自動車のメリット
好きな新機能をすぐに導入できることが、SDV自動車のメリットのひとつです。
購入してからも、車をディーラーに持ち込むことなくソフトウェアをアップデートし、自分好みの車にカスタマイズできます。
継続的な安全性の向上も、SDV自動車のメリットに挙げられます。
SDV自動車はさまざまなセンサーやカメラを搭載しており、常にデータを収集しています。
集めた大量のデータをAIに学習させて、安全性の向上や自動運転の精度向上が可能です。
SDV自動車のデメリット
SDV自動車のデメリットのひとつに、ソフトウェアが不具合を起こす可能性があることが挙げられます。
エンジンやブレーキなどのハードウェアは安全性が十分に担保されているか検証されてから出荷されます。
単一の機能しかないので、評価方法の確立や実際の検証が比較的容易です。
一方で、ソフトウェアは複数の要素が絡み合って構成されており、無限といえるほどの組み合わせがあります。
SDV自動車1台のプログラム行数は膨大で、起こりうるすべての組み合わせを検証することは不可能です。
実際にスマートフォンやパソコンは、リリース後に何度もアップデートが繰り返し実施されます。
SDV自動車の場合、スマートフォンやパソコンと異なり、ソフトウェアのごく一部の欠陥が、人命にかかわる重大な事故を引き起こすかもしれません。
SDV自動車はインターネットに接続しないと十分な性能を発揮できません。
しかし、インターネットに接続すると、サイバー攻撃の被害に遭うリスクが高まります。
悪意のあるハッキングに遭うと、自動車が誤作動し、事故につながるかもしれません。
また、SDVは軽微な故障でも厳密な修理が必要になる可能性があります。
SDVにはセンサーやカメラが多く搭載されています。飛び石による衝撃や傷でセンサーやカメラに不具合が発生すると、性能を十分に発揮できません。
特に安全な自動運転のためには、正確な位置・角度で取り付けられたセンサーやカメラが必要不可欠です。
今後、SDVを適切に修理できる整備工場も求められるでしょう。
SDVがもたらす自動車の考えられる未来
SDVがもたらす自動車の考えられる未来をいくつか解説します。
車に掲載されるソフトウェアが最も重要になる
SDVが普及した場合、車に搭載されるソフトウェアが最も重要になると予想されます。
安全性確保、利便性向上のためには、一般ユーザー用のスマートフォンやパソコン以上の計算能力がSDVに求められるでしょう。
各自動車メーカーが個別にソフトウェアを開発するのは困難です。
今後、電子機器メーカーやIT企業とのさらなる連携が必要になると思われます。
車自らがアップグレードを提案する
SDVにより、車自らがアップグレードを提案するようになるかもしれません。
購入した商品やその商品の評価からユーザーの興味や関心を自動的に導き出し、さらなる商品をおすすめする「レコメンド機能」を、多くのネットショッピングサイトが採用しています。
SDVでも同様に、ユーザーの興味や関心に沿ってアップグレードを提案できるでしょう。
スマートフォンのアプリのように、自分の好きなソフトウェアをインストールすることで、自分好みの車に仕上げられます。
車自らが異常を察知し整備士に伝える
車自らが異常を察知し整備士に伝えるSDVも生まれるでしょう。
前述したように、SDV自動車は、さまざまなセンサーやカメラを搭載しており、常にデータを収集しています。
集めたデータをAIに学習させて、部品の摩耗や故障を検知し、予知保全に活用することもできるでしょう。
自動車以外に、IoTを活用した故障診断機能を持つ工場機械が増えつつあります。工場機械の故障診断機能のノウハウがあれば、車自らが故障を察知する未来は遠くないでしょう。
必要な時だけ車を利用する選択肢が主流になる
SDVの普及により必要な時だけ車を利用する選択肢が主流になると思われます。
ハードウェアではなくソフトウェアでカスタマイズできるSDVは、複数のユーザーがそれぞれ乗るたびに自分好みの仕様に作り替えられるので、カーリースに向いています。
車の所有に対する関心が薄れている現在、SDVが普及すれば、カーリースがより盛んになるでしょう。
電気自動車は水素を燃料にしている
近年、充電したバッテリーのみで走行する電気自動車が増えていますが、水素と酸素の化学反応で発電する、燃料電池を搭載した電気自動車が主流になるかもしれません。
現在多く登場しているバッテリー式の電気自動車は、急速充電器を使用しても、充電に30分程度かかることが課題です。SDVは、スマートルーティングとエネルギー最適化機能によって多少は速やかに充電できるかもしれませんが、燃料電池自動車の水素充填にかかる時間ほど速くはないでしょう。
燃料電池自動車の水素の充填にかかる時間は、3分程度と、ガソリンの補給にかかる時間とほぼ同じです。
高額な設置費用が課題ですが、水素ステーションの普及が進めば、燃料電池自動車が主流になるかもしれません。
まとめ
SDV自動車の概要、メリット・デメリット、SDVによってもたらされる未来を解説しました。
SDV自動車には、車の性能をインターネット接続で簡単にアップデートでき、継続的に安全性や利便性を向上できるメリットがあります。
SDVの技術がより発展すれば、車自らが故障や不具合を察知したり、車がアップデートを提案したりして、より安全で快適な車社会が実現するかもしれません。
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