自転車レースの「ニュートラルカー」をご存知でしょうか? 自転車レースの写真や映像を見ると、競技車両の後方に自転車を積んだ派手なカラーリングのクルマが写っていることがあります。これが競技車両と選手をサポートする「ニュートラルカー」です。
今回、10月20日(金)~22日(日)にかけて行われた「2017ジャパンカップサイクルロードレース」で活躍するシマノのニュートラルカーを取材することができたので、その役割をお伝えします。
「ニュートラル」、その意味は?
自転車レースでは、1つのステージが100kmを超える長い距離であることが多く、選手たちは走っている間に、マラソン選手と同じようにドリンクなどでエネルギーチャージを行います。ときには激しいレースで自転車がパンクや故障など、車両トラブルが発生することもあるもの。そんなとき、基本的にはその選手のチームカーが、伴走をしながら補給などを行います。箱根駅伝で伴走する監督車みたいな感じ、といえばわかりやすいでしょうか。
それでも多くの選手が走っていると、選手とチームカーが離れてしまうなど、チームカーではフォローしきれなくなくケースも出てきます。そこで活躍するのが全チーム・全選手を公平にサポートするニュートラルカーです。
迅速に交換ができるようパーツを準備
今回は「ジャパンカップ」が行われた、宇都宮市森林公園周回コースのピットで基地を構えていた「シマノ」のサービスチームにお邪魔しました。真っ青なニュートラルカー2台と、重整備が行えるトラック1台の体制でサポートを行います。
ニュートラルカーと呼ばれるのは、実際に選手とともにコースを走り、迅速に修理などを行う車両です。車両はスバル レヴォーグ2.0GT-S EyeSightが使われていました。このレースの直前に納車されたばかりの新車で、ホイールがSTI製のホイールに変更されている以外はノーマルのままだそうです。
ニュートラルカーの最大特徴は、ルーフに積まれている巨大なキャリア。パンクしたときに交換するタイヤと、自転車自体がダメになってしまったときに使われる自転車本体が積まれています。今回は自転車が3台、ホイールが前後ペアを4組で8本、積載されていました。
さらにリアシートには、すぐに交換できるように2ペア4本、ラゲッジには今シーズンから自転車レースの規定が変わってディスクブレーキの使用が認可されたことで、専用のディスクブレーキがセットされたホイールが積まれていました。
おもしろいのは、キャリアの土台こそ専用品ですが、自転車を積むキャリアは市販のキャリアを使用しているところ。これは全国で行われるレースの最中にキャリアが壊れても、市販品なら量販店で購入して修理ができるからだそうです。サポートする車両がサポートできないのでは本末転倒ですもんね。
ニュートラルカーがレヴォーグである理由
ニュートラルカーは、選手たちと一緒に走りますから、かなりのスピードでコースを駆け抜けることになります。これだけのパーツを積んで、走行に問題はないのでしょうか? ニュートラルカーの運転も行う、シマノの小松さんにお話を伺いました。
「スバルの車両は長年使っておりますが、これだけのパーツを積んでもまったく不安なく走れます。自転車やホイールなどを高い位置に積載しますが、峠コースでも頭の上が振られることはありませんね。またレース中は、選手とクルマの速度を合わせて走行しなくてはいけない部分も多く、マニュアルモードでギアを固定して一定の速度で運転しなくてはなりませんが、そういう場面でも速度が合わせやすいですね」
レースの流れの中では、コース上で待機したあとから高速で走っている選手の集団に追いつく、または選手に追い抜かれて後方に下がる、といった動きが求められますが、運動性能に不満はなく、下りでのブレーキ性能にも不安を感じたことはないそうです。
「レヴォーグのニュートラルカーは、今回から1台が後期型になりましたが、足回りも良くなって、走行が楽になったと感じています。EyeSightが装備されるため、選手や他のチームカーとの接触や追突などが防げるのも、レヴォーグも良い点ですね」
たしかにコースサイドで見ていると、たくさんのチームカーやレースコミッショナーカー、ドクターカー、さらにコミッショナーカーの目が届かない部分でレースコントロールをするバイクも多く走っています。レースとは関係ない部分でレースの進行を妨げるのは避けたいところですね。
マヴィックカーと連携を図る
レース中、シマノのニュートラルカーと同じくサポートを行う、MAVICのニュートラルカー(通称マヴィックカー)と連携しながら走るそうです。レースコミッショナーからの指示を無線で受けながら、MAVICのニュートラルカーと連携。選手とチームカーの位置、レースの周回数や天候やコース図を頭の中で整理し、レースの流れを考えて邪魔にならないように、しかし何かあった際には迅速にサポートができる態勢を整えます。
ニュートラルカーのドライバーには、競技選手だった人も多く、シマノとMAVICのどちらのニュートラルサポートチームも顔見知りのため、阿吽の呼吸でお互いをサポートしているのだとか。
小松さんは「何も起きないのが一番ですが、何かあれば丁寧にサポートします。選手の気持ちも良くわかるし、シマノ製品の良さを知ってもらいたい。何より一番近くでレースを見られるのは良いですね(笑)」と、この仕事のやりがいを教えてくれました。
どんな競技でも選手が一番輝くのが良いことですが、それを影で支える存在が必ずあります。ニュートラルカーは宣伝も兼ねているので目立つ色をしていますが、まさにそんな影の存在です。自転車競技はもちろん選手が主役ですが、こういうサポート車両にも注目してみると、また新しいおもしろさが見つかるかもしれません。
text & photo by 雪岡直樹+Bucket
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