2010年代も後半にさしかかった今、街を行けば多くのミニバンが目に入ってきます。広大な室内空間と洗練された装備の数々はまさに“家族思い”で、見るほどに心くすぐられるものです。しかし、ファミリーカーとしてのミニバンが増え始めたのは、1990年代前半のこと。それまでは、トラックのシャーシをベースとした“ワンボックス車”が主流でした。
今回紹介する「トヨタ・タウンエースワゴン スーパーエクストラ(1988年式)」も、そんなワンボックスワゴンの1台です。オーナーの杉山さんは、なんと1995年生まれの23歳。あまりにもシブすぎる車種のチョイス。彼のカーライフに一体何があったのでしょうか?
潔い直線基調の中に動きを感じるグラフィックステッカーに80年代のデザイン記号を感じる
ミニバンの礎を築く2代目モデル
トヨタ・タウンエースワゴンは、1976年にライトエースの上級モデルとして登場。ベースは商用バンであるものの、セダンをしのぐ豪華装備を持つファミリー向けワゴンです。
杉山さんのタウンエースは、1982年にモデルチェンジされた2世代目のモデルで、年式は1988年、グレードはスーパーエクストラ。上級グレードからひとつ下のグレードで、パワーウインドウは装備されていないものの、基本的な装備の豪華さに磨きをかけたもの。
この世代のタウンエースは、「ファミリーカー=セダン」という意識が色濃かった時代の中で、その後のミニバンの隆盛を先読みしたかのような装備を持っており、改めて驚かされる部分も多く、「走るリビング」といったコピーがぴったりあてはまります。
偶然の出会い、古くても快適な実用車
「このタウンエースは、もともと知り合いの知り合いが所有していたもので、その方が手放すとうので私が引き継ぐ形になりました。最初、買うつもりはなかったのですが、前オーナーの話を聞くうちに“もったいないな“という気持ちが芽生えてしまって。それで購入して、1年と3か月が経ちました」
実は杉山さん、免許取得からわずか4年という23歳(2018年8月時点)。その期間の中でセリカ コンバーチブルやカリーナEDなど複数のクルマを手に入れ、同時所有する熱の入れようです。所有車の中では、タウンエースの実用性が高く、通勤に使うこともあるそう。ここで、杉山さんと自動車そのものとの出会いについて伺いました。
当時のキャブオーバー車はステアリングの角度が水平に近かったが、角度を立たせて乗用車感覚で運転できる設計となっていた
「クルマは幼少期からずっと好きでした。本格的にのめり込むようになった入り口は、トミカだったような気がします。特に気に入っていたのは緑色のミニカーで、ステージアやイプサムのようなワゴンでした。1980年代のクルマに興味を持ったのは高校生のころ、友人の兄が購入したコロナ(7代目、AT141型)がきっかけですね。他にも映画で空冷のビートルを見たりしているうちに、古いクルマに興味を持つようになりました。“古いクルマがカッコイイな”って」
そして高校卒業と同時に免許を取得し、23歳となる現在までのべ4台の1980年代車を所有するに至る杉山さん。AT141コロナのインパクトは、さぞかし大きかったのでしょう。
手に入れてわかるおもしろさ、豪華装備の数々
今回の本題、タウンエースのお気入りポイントを聞いていました。
「やっぱり広さですね。大人数で移動できて車中泊もできる。旧車といえども実用性は充分です。特に気に入っている装備は、当時のオプションだったクールボックスですね。専用のトレーに水を入れると、製氷する機能もついているんです」
オプションのクールボックス。手前の白いカートリッジに水を入れ製氷が可能
「他にも、スカイライトルーフというサンルーフもお気に入りです。6枚の窓のうち、1列目シートの上2枚はホップアップ、2列目が取り外し式、3列目ははめ殺しとそれぞれ違う性格を持っています。サンシェードもあり、陽射しをシャットアウトすることも可能です」
スカイライトルーフ。2列目は取り外しが可能。重たいことと落下や破損の危険性を考慮して一度も取り外しは試していない
2列目回転式シート。意外と足もとは広く、家族や友人たちとの談笑を想像すると嬉しくなる装備だ
リア席空調スイッチ。ヒーターのスイッチも見える
カーテン装備にてよりプライベート空間を意識。さながら走るリビング
実際に車内を見せていただくと回転式シートにリア席クーラー、カーテンなど現代のクルマと同等、いやそれ以上の装備を持っているように感じました。
ちなみに古いクルマというと維持や整備に苦労するものですが、杉山さんは「苦労しているのは、リッター6~7kmしか走らない燃費ぐらいですね。不調を感じるようなことは今のところほとんどなく、よく走ってくれています。海外へ中古車として輸出され、現役で活躍している個体を思うと、やはり基本が頑丈な車なんだなと実感しますね」とのこと。
ミニバンの礎を後世に伝えていきたい
最後に杉山さんとクルマの「これから」について伺ってみました。
「古いクルマを後世に残せるように、維持を頑張りたいですね。このタウンエースに関しては『日本のミニバンの歴史がここにもあるんだ!』ということを未来の人々にも気づいてもらえるように。ひとまずは、フワフワしがちなサスペンションのショックを変えたいと思います」
杉山さんの言葉からクルマへの愛が垣間見える瞬間でした。約30年前のネオ・クラシックカーと23歳の若いオーナー杉山さんに、エールを送りたくなりますね。
text & photo by TUNA
edit by 木谷宗義
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