そのデビューは、本当に衝撃的でした。1990年に登場した初代「エスティマ」がまず人々を驚かせたのは、斬新なスタイルです。伸びやかな曲線で描かれたデザインは、それまでのワンボックスカーとは一線を画する新鮮さでわくわく感がありました。まるで宇宙船のよう。前衛的で、そんな未知の乗り物や未来を感じさせる雰囲気だったのです。
しかし、チャレンジングなのはスタイルだけではありませんでした。なんと、エンジンを床下に積むという、従来の、そして今でも初代エスティマ以外は成しえていないパッケージングを実現したのです。
現代の“ミニバンの常識”を先取り
従来、「ハイエース」などトヨタが販売していたワンボックスカーは、エンジンを運転席と助手席の下に積む、いわゆるキャブオーバー型でした。キャブオーバー型はドライビングポジションが独特の姿勢、1列目の足元が狭い、1列目と2列目以降との間をエンジンスペースが塞いでいるので車内を歩いて移動できない、などのウィークポイントがありました。
しかし、エンジンを床下に搭載した初代エスティマは、足元が広く乗用車に近い感覚のドライビングポジションがとれる運転席や、1列目から3列目まで車内を歩いて移動できるフラットな床を実現したのです。どちらも今のミニバンでは常識ですが、初代エスティマ登場時には画期的なことでした。
また、エンジンを低く搭載した結果として重心が低くなり、乗用車専用設計の車体やサスペンションと相まって、ハイレベルな走行性能を得ていたのも外せないポイント。従来のワンボックスカーは運動性能が低く、ドライバーに我慢を求めるクルマでした。しかし、初代エスティマは高い次元の、ドライバーが運転を楽しめるドライブフィールを実現したのです。同乗者にとっては乗り心地がいいのもうれしい特徴でした。
商用車からの独立
ところで、初代エスティマにはどうして従来のワンボックスカーとは異なる優れた部分がたくさんあったのでしょうか? 最大のポイントは、商用車をベースにしていないことです。
ハイエースをはじめ「タウンエース」や「ライトエース」など、ワンボックスカーに分類される当時のトヨタの多人数乗用車は、どれも商用バンをベースに豪華な装備を組み込んで乗用車化したものでした。
3代目トヨタ・ハイエース ワゴン(1982年~1989年)
そのため、積載性やスペース効率、重い荷物を積んだときまで考慮した車体やサスペンションなど、快適性ばかりを重視した設計にすることはできなかったのです。
でも商用仕様を持たないエスティマは、乗用車としての理想を徹底追及してクルマを作ることができたというわけ。「商用車からの独立」を果たせたことが、ここまで思い切ったクルマ作りを実現できた理由といえるでしょう。
そんな自由な発想を具現化するかような思いきったデザインも、人々をワクワクさせてくれる秀逸なものだったのです。
text by 工藤貴宏 edit by 木谷宗義
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