三菱・デリカD:5といえば、数あるミニバンの中で唯一、タフなオフロード走破性を売りにしたユニークな存在。発売から10年を経た今も人気は衰えず、アウトドア派のユーザーを中心に熱心なファンに支持されています。
しかし、「オールラウンドの4WD性能を備えたワゴン」というキャラクターは、現行のデリカD:5が確立したわけではありません。その起源をたどってみると、1982年までさかのぼります。当時の「デリカスターワゴン」に追加された4WDモデルこそ、デリカD:5の起源。日本初の4WDワンボックスワゴンとして登場した、エポックメイキングなクルマだったのです。
パジェロのノウハウをつぎ込んだ本格派4WD
三菱にデリカという名のクルマが登場したのは1968年のこと。当初は600kg積みの小型トラックとして登場しました。翌1969年にワンボックススタイルのバンと、ワゴンの「デリカコーチ」がデビューし、デリカシリーズの礎を築きます。日本初の4WDワンボックスが誕生するのは、それから13年後の1982年。1979年にフルモデルチェンジした2代目デリカ「デリカスターワゴン」の追加モデルとして発売されました。
デリカスターワゴン(1985年)
大径タイヤと高い最低地上高から、見るからに走破性が高そうなスタイリングを持つデリカスターワゴン4WDは、その成り立ちもユニーク。ごく簡単に言うと、2WD(FR)のデリカスターワゴンに、数ヶ月前に先行して発売されていたクロスカントリー4WD「パジェロ」の四輪駆動システム(副変速機付パートタイム4WD)と足回り(フロント:ダブルウィッシュボーン、リヤ:リーフリジッド)を組合せたようなもの。三菱自動車のリリースでも「パジェロのノウハウをつぎ込んだ本格派4WD」と謳われています。
デリカスターワゴン(1985年)
デリカスターワゴン4WDは当初、1.8Lのガソリンエンジンのみをラインナップ。翌1983年には2.0Lにパワーアップされ、同時に最上級グレードの「GLX EXCEED」が追加。1984年には、パジェロと同型の2.3Lディーゼルターボもラインナップに加わります。
デリカスターワゴン・シャモニー(1985年)
ちなみにデリカD:5には毎冬、特別仕様車として「シャモニー」が発売されていますが、シャモニーの名を冠した特別仕様車は、1985年に初登場しています。メッキのエクステリアパーツなどが採用されたスタイリングは、現代のシャモニーにも通じるもの。「EXCEED」も「シャモニー」も、隠れた伝統モデルだったんですね。
「ワンボックス=商用車」という価値観からの変化
デリカスターワゴンに4WDが追加された背景には、日本のカーライフとクルマへの価値観の変化がありました。それまで商用バンやミニバス的に使われてきたワンボックスカーを、RV(レジャービークル)として使うニーズが生まれてきたのです。
たとえば、1980年にはハイエースワゴンに豪華仕様の「スーパーカスタム」や、2代目にフルモデルチェンジしてより乗用車的になった日産キャラバンも登場しています。「価値観の変化」という点では、ファミリーカーだったミニバンが、日産エルグランドやトヨタ・アルファードの登場によってセダン的に使われるようになった昨今の事情と、近いものがあるかもしれません。
デリカスターワゴン(1986年)
デリカスターワゴンは、1986年にフルモデルチェンジしてデリカとしては3代目に。自らが火付け役の一端を担ったクロカン4WDブームの追い風もあって、パジェロとともにヒットモデルとなり、1994年には後継モデルとなるデリカスペースギアも登場。2007年にデリカD:5へとその系譜をつなげ、現在に至ります。
デリカスペースギア(1994年)
他社のワンボックスワゴンにも続々と4WDが設定され、今では”四駆のミニバン”は当たり前のように存在しています。でも、デリカシリーズが35年以上にわたって唯一無二のオフロードワゴンとして君臨してきたことは、注目すべきことでしょう。デリカD:5も発売から10年が経過し、そろそろモデルチェンジの足音も聞こえてきそうですが、オールラウンドな4WD性能を持つ類まれなキャラクターはいつまでも変わらないでいてほしいものですね。
text by 木谷宗義+Bucket
photo by 三菱自動車工業
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