「日産・シルビア」と聞いて、あなたはどんな形を思い浮かべますか? 多くの人は、S13型以降の「走りのクーペ」を頭に浮かべたのではないでしょうか。
1988年に若者たちの「デートカー」として一世を風靡し、チューニングカーやカスタムカーのベースとして用いられた5代目(S13型)。そして、そのキャラクターを踏襲した6代目(S14型)と7代目(S15型)が、貴重なFRクーペとして多くのクルマ好きに愛されてきたことは、今さら説明するまでもないでしょう。
しかし、シルビアの歴史の始まりは、欧州車のようなスタイリングを持つ高級スペシャリティクーペでした。今回から2回にわたって、日産・シルビアの歴史を紐解いてみます。
初代シルビアは生産台数わずか554台
初代シルビア(CSP311型)は、1964年の東京モーターショーに参考出品された「ダットサン クーペ1500」が市販される形で、1965年にデビュー。「シルビア」の名前はギリシャ神話の女神からつけられたもので、欧州の高級クーペのような美しいスタイリングが特長でした。
当時としては先進的な局面ガラスを採用。「クリスプカット」と呼ばれる宝石のようなシャープかつ継ぎ目の少ないボディパネルは、すべて板金工が“手叩き”で作るハンドメイドでした。内装もレザーが多用されていたことからも、当時のシルビアが高級スペシャリティカーだったことがわかります。
メカニズムは、ダットサン・フェアレディ1600(SP311型)がベース。当時の価格は120万円。これはセドリックよりも高価で、1968年に生産終了となるまでの生産台数は、わずか554台に過ぎませんでした。
2代目(S10)型は当時、人気のスポーティスペシャリティに
2代目シルビア(S10型)の登場は、初代モデルの生産中止からおよそ7年後。「S10」と型式名が大きく異なっていることからもわかるように、クルマの成り立ちやキャラクターはまったく別のものとなりました。車名も正式には「ニュー・シルビア」に。
日産ニュー・シルビアLS Type X(1975年)
1970年にデビューしたトヨタ・セリカや三菱・ギャランGTOなど、当時はスポーティなスペシャリティカーが人気だった時代。ニュー・シルビアは、当時のサニーのプラットフォームをベースに、セリカやギャランGTOのライバルとして投入されました。
日産ニュー・シルビアLS-E Type X(1977年)
その特徴は、ルーフからテールエンドまでなだらかなラインを描くスタイリング。ルーフに向かって切り上げられたサイドウィンドウや、サイドまで回り込む一直線のリヤコンビネーションランプも、シルビアの独創性を感じさせる部分です。しかし、このスタイリングは奇抜だと受け止められたようで、大ヒットには至りませんでした。
エンジンは、ブルーバードUと同様の1.8L 4気筒エンジン(L18型)を搭載。当時、日産はロータリーエンジンの開発を行なっており、ニュー・シルビアへの搭載も囁かれていましたが、オイルショックにより燃費性能や環境性能が重視されたことで断念されたようです。
ターボエンジン搭載車も登場した3代目(S110型)
車名から「ニュー」が取れて再び「日産シルビア」とった3代目(S110型)は、1979年にデビュー。「白い稲妻シルビア」をキャッチコピーに、従来からのハードトップ(ピラーレス2ドアクーペ)に加え、3ドアハッチバックもラインナップされました。
日産シルビア2000 ZSE-X(1979年)
スタイリングは、2代目(S10型)から打って変わって直線基調に。1980年代を先取りするようなデザインが当時の若者たちの心をつかみ、ヒットモデルとなります。デビュー当初は1.8L(Z18型)エンジンのみだったものの、2.0L(Z20型)搭載車も追加。
日産シルビアRS Extra(1982年)
さらに1981年にはターボエンジン搭載車(Z18ET型)がデビュー。1982年にはDOHC4バルブエンジン(FJ20E型)を搭載するDOHC RSシリーズもラインナップに加わります。「走りのシルビア」はこの頃から確立されてきたと言えるでしょう。国内でスーパーシルエットレースに参戦したり、海外ではサファリラリーで3位入賞を果たしたり、モータースポーツでの活躍も見られました。姉妹車の「ガゼール」も登場。
リトラクタブルヘッドライトが特徴の4代目(S12 型)
4代目(S12型)は、3代目(S110型)の登場から4年後の1983年。引き続き「白い稲妻」というキャッチコピーが採用され、2ドアクーペと3ドアハッチバックがラインナップされました。基本的なシルエットは先代モデルから踏襲されていますが、新たに採用されたリトラクタブルヘッドライト(格納式ヘッドライト)が外観上の大きな特徴。姉妹車のガゼールも同時にモデルチェンジしています。
日産シルビア クーペ ターボRS-X(1983年)
リアサスペンションは、セミトレーリングアーム式の4輪独立式に進化。エンジンは、1.8L(CA18型)と2.0L(FJ20型)の2種類の排気量が用意され、2.0Lにはターボも設定。のちに1.8Lにもターボがラインナップされ、1986年のマイナーチェンジで1.8Lのみとなります。同時に姉妹車「ガゼール」は販売終了に。
日産シルビア ハッチバック ターボR-L FISCO(1984年)
最上級グレードの名称「ツインカムターボRS-X」は、いかにも1980年代的ですね。しかし、ホンダ・プレリュードなどのヒットもあって、販売面では苦戦した世代でありました。モータースポーツ分野では、1988年には、日産200SXグループAとして出場したWRCアイボリーコーストラリーで総合優勝を達成しています。
ここまでが“S13より前”のシルビア。初代と2代目こと特異な雰囲気がありますが、3代目で「ターボエンジンを搭載するFRの2ドアクーペ」というスタイルが確立されていたことがわかりますね。次回は、“S13以降”を特集いたします。
>>>後編「日産シルビア、その歴史2 ~スポーツカーとして確固たる地位を築いたS13以降~」へ
text by 木谷宗義+Bucket
photo by 日産自動車,日産ヘリテージコレクション
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