平成も終わりが近づき、さらに遠ざかる昭和の時代。年号の変わる節目を意識してか、少しレトロな文化を見直す雰囲気が流行しています。過去を振り返ると特に懐かしく思えるのが、幼少時代。読者の方々の中にも大切なおもちゃをしまう「宝箱」を持っていた人は多いかもしれません。 ミニカーに絵本、ちょっと背伸びして両親からもらったカセットテープなども思い出深いのではないでしょうか。
歳を重ねるにつれて大事なものの定義も変わり、気づけばどこへ行ったのかわからないようなモノもちらほらと……。 かつて無くしてしまった宝物たちは、ひょっとすると今回紹介する、この車のトランクに詰まっているのかもしれません。
アメ車っぽさと親しみやすさが、初めての愛車に選んだ理由
日産 YV30型グロリアバンは1983年に登場し、1999年まで生産された長寿モデル。セダン・ハードトップボディを持つセドリック/グロリアのワゴンモデルとして、先代にあたる430型に引き続きリリースされました。パトロールカーや公用車、商用バンとしての使われ方も多かったモデルですが、そのクラシックな見た目と乗り味に惚れる方も多く、今なお愛される一台です。そんなグロリアバンに惚れたオーナーさんがここにも一人。
1983年デビュー。グロリアとしてのモデルチェンジは7代目だ。デザインはまさに’80sだが、1990年代後半までほぼそのままの姿で売り続けられた長寿モデルだ
1996年式のグロリアバンより一個年上というオーナーのよっしーさんは、1995年生まれの24歳。
「グロリアバンは自分にとって初めての愛車です。もともとはアメリカ車が好きで中古車を探していたのですが、周囲から国産車から慣らしたら?との声もあり、日本車に絞って中古車選びを始めました」
もともと自動車やレトロな文化に興味があったというよっしーさん。いざ、クルマ選びを始め日本車に絞り込んだとしても、その選択肢はちょっとマニア目線に……。
「国産車の中でもアメリカ車っぽい車が良いなと思い初代デボネア、クラウンバン、そしてグロリアと兄弟車のセドリックバンを候補に挙げました。実車を見ながらふるいにかけていった結果、日産車の定規で引いたような直線基調にやられ、セドリック/グロリアバンを重点的に探すことにしました」
グレードはV20Eデラックス。ボディカラーはピュアホワイト(#621)
しかし、初めてのクルマ選びは難航。そこには古いモデルだからこその悩みどころがあったと言います。
「最初のころに見に行った個体は、かなり年季の入ったカスタムがされていました。それ自体は後々どうにかしようと思っていたのですが、いざ室内を見てみようとすると、開けたドアがそのまま地面に落ちてしまったんです……」
そんな個体を見てからは「安くてすぐに乗り換えられるような車でもいいかな」と少し諦めムードが漂っていたそう。そんなある日、友人の車に相乗りでドライブを楽しんでいたよっしーさんは、自宅近くの中古車屋の脇を通ったときにある1台を見つけました。
「店の片隅に一瞬、日産・PAOが見えたんです。もうPAOにしちゃおうかな?なんと思っていると、店の奥に白いグロリアバンが。値段も予算を大幅に下回っていて、しかも外装がとても綺麗。走行距離は16万5千キロと多かったですが、前のオーナーさんから受け継いだたくさんの部品類が一緒についてきたことが決め手となって購入しました」
乗ってみてわかる。国産ネオクラシックカーのおもしろさ
とうとう初の愛車を手に入れたよっしーさん。実際購入してから細部を見ても非常に程度がよく、前オーナーさんの手入れっぷりを感じたそう
お気に入りポイントはなんといってもスモール灯。ロングに発光するアンバーの光はアメリカ車のような雰囲気を演出してくれる
「趣味にも仕事にも活躍してくれているので、使い勝手的にも大満足です。買う前はカスタムも考えていたのですが、前オーナーさんのイジり方がかなり好みで、変えたのはホイールキャップとコーナーマーカーを後付けしたぐらいです」
左リアのクオーターウインドウは外からの鍵操作で開閉することが可能。驚きなのはフロントとリアドアは手回しウインドウ車でもクオーターウインドウのみモーター開閉なのだ
見た目はいかにもクラシックですが、よっしーさんが購入してからの2年間はオイル交換とタイミングベルトの交換をしたぐらいで、他は修理個所がないそう。比較的年式も新しい個体があるグロリアバンは、国産ネオクラシックカー入門編としてお勧めの一台なのかもしれません。
均整のとれたリアビュー。なつかしのステッカー類はオーナーさんこだわりのアイテムだ。
「走らせても速いタイプの車ではありません。車自体も大きくておおらかに走るような乗り味なので、以前よりも優しい気持ちで運転するようになりました(笑)。全長も長いのですが、車体が角ばっているので最近の車より感覚がつかみやすいと感じています」
エンジンはV6・2000のVG20E。出足は軽自動車に負けてしまうというが、大柄なボディを動かす感覚はまさに“走らせている”という感覚が強いそう
大柄に見える車体でも、運転すると全体が見わたしやすい。これもドライバー自身への使い勝手が優先された古い車ならではなのかもしれません。
それは懐かしの“夢宝箱”。少年たちの思い出が詰まったトランクルーム
往年のアイドル写真集にプルバックカー、レア物プラモなどなど。ひとたび視線を落とせば数十分はその場から動けなくなってしまう。大人の“移動式本屋さん”だ
そんな愛車だからこそ、あっちこっちへ行きたくなるもの。気づけば広い荷台にはお気に入りのミニカーや本、CDで満載になることが多くなっていきます。
「もともと古いものが好きなこともあり、お気に入りのグッズを荷台に置くようになりました。そのうち、自分の持っている物を人に譲ったりフリーマーケットに参加したりするうちに、最近では周囲から大人の“夢宝箱”と呼ばれるようになりました(笑)」
車内も直線基調。手巻きウインドウにふわふわシート。昭和を感じるアイテムに包まれる
今ではどこに行くのもグロリアバンと一緒というよっしーさん。ときには、グロリアバンに助けられたこともあったとか。
「仕事中にぎっくり腰になってしまい早退したことがありました。腰が痛くて這って車までたどり着いたのですが、グロリアバンに乗るとシートがフワフワのスプリングでできているので腰がつらくないんです。シートの密着感がよすぎて車から降りるまでの方がしんどかったですね(笑)」
ふわふわシートに包まれた助手席の友人たちは、リラックスしすぎて夢の世界に誘われてしまうことも多いとか。あなたも一度乗ればグロリアバンの虜になってしまうかもしれませんね。優しい乗り心地のボディにたくさんの宝物を載せて、よっしーさんのグロリアバンはこれからも走り続けることでしょう。もしイベントで出会ったら、トランクに眠る宝物たちを覗いてみてください。
text & photo:TUNA
edit:木谷宗義