今「レンジローバー」と言えば、トップモデルの「レンジローバー」に「スポーツ」「ヴェラール」「イヴォーク」のファミリーモデルを加えた計4モデルをラインナップする、ジャガーランドローバー社の高級SUVブランドのことを指します。
しかし、もともとはローバー社が生産する「レンジローバー」という1モデルの名前でした。この初代レンジローバーこそ、その名前が高級SUVの代名詞となるきっかけを作っただけでなく、高級SUVというジャンルそのものを作ったクルマだったのです。
オフロード性能と高級サルーンの快適性を
初代レンジローバーのデビューは、1970年。ローバーなどを有するブリティッシュ・レイランド(BL)の中でオフロード4WDを担当するランドローバーブランドの新型車として登場しました。
このときはまだ「SUV」という言葉などなく、アメリカでようやくジープ・ワゴニアやフォード・ブロンコといったSUV的なオフロード4WDが登場し、少しずつ定着してきた時代です。「オフロード性能と高級サルーンの快適性を併せ持つクルマ」として開発されたレンジローバーは、すぐにバックオーダーを抱えるほど脚光を浴びました。
では、どんな人が初代レンジローバーを求めたのか? ここに現在の高級SUVブランドに至るヒントが隠されています。
その答えは、「上流階級」。イギリスの位の高い人たちが、キャンプや狩猟、乗馬を楽しむためにこぞって購入したのです。中には、大陸を横断するような冒険をする人もいたとか。そして、「砂漠のロールスロイス」と呼ばれ、イギリス上流階級のステータスとなっていきました。
ちなみに、1979年にデビューしたメルセデス・ベンツのゲレンデヴァーゲン(現在のGクラス)は、レンジローバーのヒットにより生まれたとも言われています。
初代レンジローバーの生産期間、26年
3.5L V8エンジン+4速MTのパワートレインに、2ドアボディの組み合わせでデビューしたレンジローバーは、1980年代になると4ドアボディやAT(オートマチック)を追加。1987年にレザーシートなどを装備した「VOGUE SE」が登場し、北米で販売を開始すると、高級SUVとしての地位を確立していきます。1990年には日本でも正規輸入が始まりましたが、このときすでに生産開始から20年が経っていました。
初のフルモデルチェンジは、1994年。その後もおよそ2年にわたって初代モデルは併売が続き、生産終了となったのはデビューから26年目となる1996年でした。なぜ、こんなにも長く初代レンジローバーは作られたのでしょうか?
その理由のひとつには、北米でのヒットなどもあり、変わる必要がなかったこともあるでしょう。また、開発陣の中で意見が割れていたためという説もあるようです。しかし、大きな理由は経営基盤が不安定だったことでしょう。
1986年代ブリティッシュレイランドから独立したローバーグループは、ブリティッシュ・エアロスペース傘下に。さらに1994年にBMWに買収されることとなります。不安定な経営の中での開発は難しかったのでしょう。しかし、それゆえに名車が生まれたのもまた事実なのです。名車を呼ばれるクルマの中には、不運や悲運の中で生まれたものも少なくありません。こうしたところもクルマのおもしろさのひとつですね。
text & by 木谷宗義
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