今でもファンが多いスポーツカー。マツダRX-7やRX-8に搭載された「ロータリーエンジン」>は、一般的なエンジン(レシプロエンジン)とは違う特殊な構造を持ったエンジンです。その構造ゆえに、開発と製造が難しく、世界中の自動車メーカーが諦める中、唯一マツダだけが量産に成功し、21世紀まで育て上げてきました。
コンパクトで大パワー、ロータリーエンジンの仕組みと特徴
ロータリーエンジンは、ピストンの上下運動を回転運動に変換して動力を得るのではなく、三角形のおむすびのような形をした「ローター」が自ら回転することで動力を作り出すエンジンです。
「ペリトロコイド曲線」と言われる特殊な形状で設計されたハウジング内をそのローターが回転し、一辺が一回転するうちに、吸気・圧縮・燃焼・排気の一連の工程が行われます。このサイクルが絶えず3つの辺で連続して行われるので、まるで電気モーターのようなスムーズな回転と、鋭い加速を生み出せるのです。
また、カムやバルブなどがないため部品点数が少なく、エンジン本体の小型・軽量化にも貢献します。これはそのままクルマの運動性の高さにもつながります。
そして、コンパクトなのに大パワーを生み出せるのも、ロータリーエンジンの大きな特長です。「RX-7」に積まれるマツダの代表的なロータリーエンジンの13B型は、2つのローターで、排気量は1308ccしかありません。しかし、最高280psを発生し、2500~3000ccの6気筒エンジンと同等のスペックを誇るのです。
このスペックはモータースポーツに非常に有利で、特別な4ローターのロータリーエンジンを搭載し、1991年のル・マン24時間レースに挑んだマツダ・787Bは鉄壁の速さを誇り、総合優勝を果たしました。日本の自動車メーカーの総合優勝は、現在もこの787Bだけです。
ドイツで生まれ、日本で育ったロータリーエンジン
ロータリーエンジンが生まれたのは1959年。独・NSU社のフェリクス・バンケル博士が発明しました(博士の名前をとって“バンケルエンジン”とも呼ばれています)。上下運動を回転運動に変換するのではなく、エンジンそのものから回転運動を取り出す画期的なエンジンとして話題になり、世界中の自動車メーカーが共同開発を申し出ました。
しかし、ロータリーエンジンは多くの問題も含んでいました。
代表的なのは、ハウジング内に、チャターマーク(悪魔の爪痕)と言われる無数の引っ掻き傷ができてしまうこと。他にも、排気の異常白煙や低回転域での振動、アイドリングの不安定など、解決する問題は山積みでした。
この問題に真摯に取り組んだのがマツダで、それらを克服して生まれたのが1967年に登場したコスモスポーツです。世界中の自動車メーカーが夢見たエンジンは、日本の自動車メーカーによって実現され、ロータリーはマツダの魂の一部となっていきます。
その後、燃費や排ガスなどが通常のレシプロエンジンよりも悪いため、何度も生産中止の危機にさらされたロータリーエンジンですが、その度にマツダの技術者が知恵を絞り、改良を重ねて作り続けられていきました。
実はバラエティに富んでいるマツダロータリー車
今でこそ「RX-7」や「RX-8」のイメージが強いロータリーエンジンですが、コスモスポーツの登場以降、実はさまざまな車種にロータリーエンジンが搭載されてきました。
コスモスポーツ以降は、ファミリア・ロータリークーペやカペラ、サバンナ、ルーチェ、そしてマイクロバスのパークウェイなど、スポーツカー以外のモデルにもロータリーエンジン搭載車を設定。全モデルにロータリーエンジンを搭載する「ロータリゼーション」を推し進めていたこともあったのです。
ロードスターと並ぶマツダのスポーツカーの代名詞RX-7は、70年代に問題となった燃費や排ガスの浄化などの改良を経て1978年に初代モデルのサバンナRX-7(SA22)が登場。以降、ロータリーエンジンは2代目 RX-7(FC型)、3代目 RX-7(FD型)、及びRX-8に承継されました。
ロータリーエンジンは、2012年のRX-8の販売終了とともに一旦生産を終了。しかしマツダは、2015年の東京モーターショーで次世代ロータリーエンジン「SKYACTIVE-R」の開発継続を明かし、ロータリーエンジン搭載のコンセプトカー「RX-VISION」を公開しました。
これまで様々な逆境を乗り越えてきたマツダとロータリーエンジン。
いつかまた、世界の道をロータリーエンジンのクルマが走る日が訪れるでしょう。
text by 阿部哲也+Bucket
写真提供:マツダ