アメリカの自動車文化を牽引してきたのが、かつてビッグ3と呼ばれた、「フォード」「GM(ゼネラルモーターズ)」「クライスラー」の3社であることは間違いありません。しかし、現在の勢力図ができあがるまでには、たくさんのメーカーが生まれては消えていきました。「タッカー」もそのひとつです。
「理想のクルマ」を追求したプレストン・トマス・タッカー
タッカーは、プレストン・トマス・タッカー氏によって考案されました。子どもの頃からクルマ好きだったタッカー氏は、自動車産業が大きなビジネスになることを目論んで、戦後間もない1946年に会社を設立。新聞紙上で新型車の構想を発表すると、大きな話題を呼びました。そして1947年、自身の名を冠した「タッカー」というセダンが登場します。
全長5487mm×全幅2057mmという大柄なボディを持つこのクルマは、5.5Lの水平対向6気筒をリヤに搭載するユニークなレイアウトを採用。四輪独立懸架式のサスペンションやステアリング連動式のヘッドライト、「パッシブセーフティー」の考え方が用いられたクラッシャブル構造や空力を考慮したスタイリングなど、先進的な思想で作られたクルマでした。
You Tubeチャンネル「Legendary Motorcar Company」で、実際に走行する姿を見てみてください。手元で操作する、電動式のシフトノブにも注目です。
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映画にもなった数奇な運命
しかし、タッカーが生産されたのはわずか1年。その生産台数はたったの51台でした。タッカーは発表されるや注目を浴び、30万台近くを予約受注しますが、何度も設計変更を行ったり資金繰りが悪化したりと、なかなか本格的な生産を始めることができず、結局資金難によって会社は倒産。51台のみが生産された「幻のクルマ」となってしまったのです。
しかし、幸運にしてタッカーを手にした人は、よほどこのクルマに価値を見出したのでしょう。生産された51台のうち、46台が現存していると言われ、その1台はトヨタ博物館で見ることができます。
このタッカーの数奇な運命は、フランシス・コッポラ監督によって1988年に『Tucker: The Man and His Dream(邦題:タッカー)』として映画化されました。劇中には当時現存していた多くの実車が登場し、夢に向かって困難を乗り越えるプレストン・トマス・タッカー氏が描かれています。映画では、タッカーの存在を脅威に感じたビッグ3の妨害により窮地に追い込まれていく様が描かれていますが、果たしてどこまでが事実でどこまでがフィクションなのでしょうか。
短い生産期間、少ない台数、当時としては画期的な設計の数々、そして謎を残した倒産。タッカーが伝説的なクルマになることは、必然だったと言えるでしょう。しかし、志半ばとは言え一人の男の夢が実現し、多くの功績を残したことは事実。現存する多くのタッカーが、これからも大切にさせていくことを願わずにはいられません。
text by 木谷宗義 photo by トヨタ博物館
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