トヨタのクルマはトヨタが作るもの、プジョーのクルマはプジョーが作るもの……と限らないことは、クルマ好きならばよく知っていることでしょう。資本提携や技術提携によって、提携先のクルマをベースにしたモデルが販売されることもあるものです。今回は、提携によって生まれたクルマの中でも、とりわけユニークな存在感を持つクルマをいくつか見てみましょう。
アストンマーチン・シグネット
高級スポーツカーメーカーであるアストンマーチンから、コンパクトカー(というよりマイクロカー)である「シグネット」が発表されたのは2010年のこと。ベースとなったのはトヨタiQで、トヨタの高岡工場から英・ゲイドンにあるアストンマーチンの本社向上へ運ばれ、“アストン流”の豪華な内外装に仕立てられました。日本での価格は、iQのおよそ3倍となる475万円。2000万円以上もするアストンマーチン車のオーナーにとってはこの価格も高くない!……とはいえ、販売は成功しなかった模様です。
メルセデス・ベンツ シタン
ダイムラーAGとルノー・日産アライアンスの「戦略的提携」によって生まれたのが、2012年に発表されたメルセデス・ベンツ「シタン」です(日本未導入)。顔つきこそメルセデス・ベンツですが、“顔以外”を見ればそのベース車両がルノー・カングーであることがわかります。生産工場もカングーと同じ、フランス・モブージュ工場。フレンチブルーミーティングに乗っていったら注目されること間違いなし!?
プジョー4007/シトロエン・Cクロッサー
2007年にPSA(プジョーシトロエン)から登場したSUV、プジョー「4007」とシトロエン「Cクロッサー」は、三菱・アウトランダーをベースに開発されたもの。電子制御4WDシステムを含め、基本的なメカニズムは三菱製となりますが、サスペンションは独自のチューニングが施され、PSA製ディーゼルエンジン搭載車も設定されました。2011年には三菱RVRをベースとして、プジョー4008、シトロエンC4エアクロスも登場。どちらも日本未導入。
プジョーion/シトロエンC-zero
PSA×三菱による提携モデルをもうひとつ。三菱i-MiEVベースのプジョー「ion」、シトロエン「C-zero」です。EV(電気自動車)パワートレインはi-MiEVのものを踏襲しながら、高速走行を考慮したサスペンションチューニングが施されました。先進的なデザインのi-MiEVだけに、プジョー版もシトロエン版も違和感があまりないですね。
サーブ9-2X/9-7X
ブランド消滅も記憶に新しいサーブは、スバル・インプレッサワゴンをベースにした「9-2X」を北米市場で販売。メカニズムは、もちろん「ボクサーエンジン+シンメトリカルAWD」で、インプレッサと同じ群馬製作所で生産されました。また、北米サーブでは「9-7X」という大型SUVもラインナップされましたが、こちらはシボレー・トレイルブレイザーをベースとしたもの。
なぜ、こんな提携モデルが誕生したのかというと、当時のサーブがGM傘下にあり、同時にGMがスバルの株式を保有していたから。まさかその後、スバルがトヨタと資本提携を結ぶなんて、そしてサーブブランドが消滅してしまうなんて、当時は思いもよりませんでした。
ホンダ・クロスロード
1990年代前半は、三菱・パジェロを始めとしたRV車(今で言うSUV)がブームだった時代。そんな中、RV車を持たなかったホンダは当時、提携関係にあったローバーグループから、ランドローバー・ディスカバリーのOEM供給を受けることで同カテゴリのクルマを国内ラインナップに加えました。CR-Vが誕生する前、1993年ことです。それがホンダ「クロスロード」。エンブレム以外はディスカバリーのままなので、エンジンは3.9LのV8 OHV。ホンダでV8エンジンを搭載する市販車は、今のところこのクロスロードが唯一!
またホンダは、いすゞ・ビッグホーンを「ホライゾン」として、いすゞ・ミューを「ジャズ」として販売しました。今ではちょっと考えられない、ユニークな提携モデルですね。ちなみにこのころ、ビッグホーンはスバルにもOEM供給され「スバル・ビッグホーン」として販売されていました。
ヒュンダイ・ギャロッパー/ギャロッパーⅡ
韓国のヒュンダイは、三菱自動車との技術提携により、自動車生産の技術を磨いてきたメーカーです。そのため、三菱車をベースとした独自モデルを数多く販売してきた歴史があります。中でも注目したのが、初代パジェロをベースとした「ギャロッパー」。
写真のモデルは、後期型となる「ギャロッパーⅡ」で、一見すると2代目パジェロに見えますが、角ばったルーフなどからそのボディが初代パジェロのものであることがわかります。2000年代前半まで生産されました。
アルファロメオ・アルナ
ユニークな提携モデルの最高峰(?)に位置づけられるのが、アルファロメオ「アルナ」です。1980年代当時を知っている人なら、このクルマのボディが日産・パルサーのものであることがわかるでしょう。ヨーロッパに拠点を持ちたい日産と、当時、イタリア産業復興公社の管理下にあったアルファロメオの思惑が一致し、生まれたのがこのクルマ。アルファロメオ製の水平対向エンジンが搭載され、イタリアで生産されました。
「アルナ」の車名は、2社で設立した新会社「Alfa Romeo Nissan Autoveicoli」の頭文字から。しかし、操縦性に対する評価は高かったものの販売面で成功はせず、わずか数年でこのプロジェクトは終了してしまいます。
技術提携や資本提携によってラインナップを拡充して成功した例もあれば、歴史に翻弄される中で生まれたような悲運なモデルもあるもの。世界に目を向けてみれば、まだまだ提携モデルはたくさんあります。提携関係からモデルやメーカーを見ると、クルマを見る視野がぐんと広くなっておもしろいですよ!
text by 木谷宗義
▼シタンにトゥインゴ、Xクラス…進むダイムラーとルノー・日産の技術提携
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▼世界じどうしゃ人文学
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