2017年にMINIにその座を奪われるまで、長らく輸入車の“絶対王者”としてナンバーワンに君臨していたフォルクスワーゲン・ゴルフ。都市部では見かけない日はないほど、日本でも当たり前の存在として親しまれています。
現在は7世代目が販売されているゴルフの誕生は1974年。ゴルフが世界的な人気モデルとなったのは初代モデルからで、その圧倒的な実用性と走行性能に世界中から注目されました。
ビートルの後継モデルとして生まれたゴルフ1
フォルクスワーゲン ビートル Last Edition(2003年)
ゴルフ1は、それまでのフォルクスワーゲンの顔であったタイプ1(通称ビートル)の後継車種として開発されました。初代ビートルは、第2次世界大戦以前の1945年に製造が本格的に始まり、世界で人気を獲得していましたが、1970年ごろになるとさすがに基本設計の古さが目立つように。そこで、フォルクスワーゲンは、ビートルの後継モデルの開発をスタートします。
しかし、世界中でベストセラーとなり、クルマの大衆化に大きく貢献したビートルの後継モデルを開発するのは、容易ではないことです。ビートルが作り上げた大衆車というポイントを抑えながら、時代のニーズに合致したまったく新しいクルマを作る。ゴルフ1にはビートルの延長線上ではない、新しいパッケージングが求められたのです。
水冷・FF・直線デザイン、ビートルとは真逆のゴルフ1
1974年に完成したゴルフ1は、「ボディがコンパクト」という以外に、ビートルとの共通点はほとんどないほど、新しい発想で開発されました。ビートルが空冷水平対向4気筒エンジンをリヤに積み、後輪を駆動する「RRレイアウト」だったのに対し、ゴルフ1は水冷直列4気筒エンジンをフロントに積み、フロントタイヤを駆動する「FFレイアウト」を採用します。
フォルクスワーゲン・ゴルフ1(1974年)
ビートルとは打って変わった直線基調のスタイルは、のちにフィアット・パンダなどの大衆車からロータス・エスプリのようなスポーツカーなどを生み出すジョルジェット・ジウジアーロ氏が手がけたもの。
パワートレインをフロントに集約したことに加えて、広い室内空間とラゲッジスペースを実現したジウジアーロの機能的かつ合理的な設計が当時は画期的で、広く受け入れられた要因でもありました。
世界中が驚いたクラスを超える走行性能
機能性もさることながら、世界の人々を驚かせたのは、そのコンパクトボディからは思いもつかないような高い運動性能でした。かの自動車評論家、徳大寺有恒さんも日本車の常識を超えたブレーキ、ハンドリング、燃費性能に衝撃を受け、書き上げたばかりの著書『間違いだらけのクルマ選び』の原稿を直したといいます。
「コンパクトでよく走る。しかも機能的」、この考えは世界中のメーカーに衝撃を与え、いつしかゴルフは実用車のベンチマークに。1975年には、世界中のスポーツカーファンをうならせたホットハッチの元祖「GTI」も発表され、スポーツカーの概念をも変えていきます。
フォルクスワーゲン・ゴルフ1 GTI(1976年)
その後も、5ドアハッチバックモデルや、オープンのカブリオなどが追加。さらにゴルフ2、ゴルフ3とモデルチェンジも行われ、現在は7代目(ゴルフ7)が生産されています。ゴルフ1からの累計生産台数は2013年に3000万台を超え、2014年には生誕40周年を迎えました。この間、ずっと世界の実用ハッチバックのベンチマークであり続けてきたのです。
フォルクスワーゲン・ゴルフ1 カブリオ(1976年)
ゴルフ1がなければ、今日のフォルクスワーゲンはなかったどころか、マツダ・ファミリアやホンダ・シビック、フォード・フォーカス、ルノー・メガーヌといったライバルたちも、生まれてこなかった可能性もあります。実用車の基準をひっくり返し、その水準を大きく高めたゴルフ1の功績は、計り知れません。
フォルクスワーゲン・ゴルフ7(2012年)
ちなみにビートルは、ゴルフ1が登場した数年後に、ドイツ国内での生産を終了しますが、その後もメキシコやブラジルで製造され、21世紀に入るまでの間、60年以上にわたって一度もフルモデルチェンジすることなく生産されました。ヨーロッパでは、ゴルフにバトンを渡したあとも、世界で活躍し続けたのです。
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text by 阿部哲也 edit by 木谷宗義