「CVCCシビック」と聞いて、懐かしさを覚える方もいるのではないでしょうか? CVCCは、1970年代に世界のクルマを救った技術と言えるもの。若い世代の方は知らないかもしれませんが、ぜひ知っておいていただきたい自動車史に残る技術です。では、このCVCCとは、一体どんなものでしょうか?
自動車メーカーが「達成不可能」と主張した排ガス規制「マスキー法」
1950年代、先進国でクルマが普及し始め、大気汚染が問題視されるようになりました。1960年代に入ると大気汚染に関する法整備が進み、1965年にアメリカで自動車汚染防止法が制定されるなど、大気汚染問題が深刻化した時代でした。そして1970年に制定されたのが、よくその名が知られている「マスキー法」です。マスキー法は、正式には「1970年大気清浄法」と言い、アメリカ上院議員のエドモンド・S・マスキー氏が発案したことから、そう呼ばれています。
このマスキー法は、とてもハードルの高い排ガス性能が求められるもので、1975年型車から順次適応されることになっていましたが、世界中の自動車メーカーから「達成は不可能だ」と反発を受けました。結論から言うと、このマスキー法を世界に先駆けてクリアしたのが、ホンダの「CVCCエンジン」を搭載したシビックだったのです。
1972年にシビックCVCCが誕生!1975年からは全車CVCCに
「タイプR」のスポーティなイメージが強いシビックですが、「CIVIC=市民の」という名のとおり、もともと「軽量・コンパクトでキビキビ走る世界のベーシックカー」として誕生したクルマ。初代モデルは1972年に、当時まだ珍しかった2ボックススタイルのFFとして登場しました。そして、翌年の1973年にCVCC(複合過流調速燃焼)エンジンを搭載したモデルを発表。マスキー法をクリアした世界初のモデルとして、全世界から注目されたのです。
発売当時のシビックCVCCの価格(東京地区)は、59.5万円(STD)~71.6万円(GF)で、CVCC非搭載モデルより5万円前後、高価な設定となっていました。ちなみに、CVCC搭載モデルでは、自動車取得税の減免額があったそう。今で言うエコカー減税ですね。1975年のマイナーチェンジ(下記写真のモデル)からは、全グレードでCVCCエンジンが搭載されるようになりました。
開発には日産サニーが使われた!? CVCC開発エピソード
当時、ホンダはまだ四輪車事業に乗り出したばかりでした。CVCCは、「四輪の最後発メーカーであるホンダにとって、他社と技術的に同一ラインに立つ絶好のチャンス」という本田宗一郎氏の考えもあって始められたもの。
開発にあたっては、ホンダで既存の副燃焼室つき汎用エンジンを使ったり、N600用エンジンを改造したりされたと言います。また、当時テストに使える水冷エンジンを持たなかったホンダは、水冷の研究をするために日産のエンジンでテストを行った他、サニーのフレームに試作エンジンを載せたこともあったとか。当時の時代性を感じさせるエピソードですね。
ホンダが素晴らしかったのは、CVCCを自社だけの技術にとどめなかったこと。公害対策技術は積極的に公開する方針を表明していて、CVCCの技術も他メーカーに公開されました。すると、トヨタへ技術供与することが決定。このことがニュースとなり、フォードやクライスラー、いすゞへも技術供与を行いました。本田宗一郎氏の先見的な考えが、名実ともにホンダを「世界のホンダ」へと押し上げたのです。
シビックCVCCは、米国EPAでの審査の際、マスキー法をクリアしただけでなく、燃費でも1位となりました。1974年から4年連続で燃費1位となり、低燃費かつ低公害なクルマとして、アメリカでも高い評価を得るのです。その後、現在に至るまでシビックの名を持つクルマがアメリカで販売され続けているのはご存知のとおり。すべては、世界に先駆けてマスキー法をクリアしたシビックCVCCから始まっていたのです。
くるまマイスター検定では、たびたびシビックCVCCの問題が出題されていますが、それは自動車史になくてはならない存在だから。マスキー法とCVCC、ぜひ覚えておいてくださいね!
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text by 木谷宗義