スバルWRXに日産GT-R、ホンダ・NSX、フェラーリGTC4ルッソ……、今でこそスポーツモデルやハイパフォーマンスモデルに4WD(四輪駆動)システムが採用されることは当たり前となっています。でも、ちょっと考えてみてください。「昔の4WD」と聞いて思い浮かべるのは、ジープのようなオフロードカーではないでしょうか?
4WDは、20世紀初頭のレーシングカーですでに用いられていたものの、悪路走破性を高めるために1940年前後の軍用車両に多く用いられたことで、広まった技術です。ジープやランドローバー、ランドクルーザーによって、「4WD=オフロードカー」の図式は確固たるものになります。
では、いつからスポーツモデルに4WDが用いられるようになったのでしょうか? それには明確な“きっかけ”があります。1980年に登場したアウディ・クワトロというクルマの登場です。今、アウディの4WDシステムの呼称になっている「quattro(クワトロ)」は、もともとはひとつの車名でした。
4WDの採用で走りの常識を覆した
アウディ・クワトロ(以下:クワトロ)登場以前、1980年までのラリーシーンは、ランチア・ストラトスやフィアット131アバルトといった後輪駆動車で戦われるのが定石でした。そこに登場したのが、センターデフ付き4WDシステムを採用したクワトロです。
アウディが1981年のWRC(世界ラリー選手権)にクワトロを参戦させると、320psの5気筒ターボエンジンを積んだこの4WDマシンはすぐに頭角を現し、第2戦の「スウェディッシュラリー」で早くも優勝。シーズン3勝をあげてその実力を見せつけました。
なお、そのうち1勝は、ミシェル・ムートンという女性ドライバーによるもの。WRC史上初にして(2017年9月現在)唯一の女性ドライバーによるWRCでの勝利でした。
このあとWRCは、限りなく競技専用車に近い「グループB」カテゴリーの時代に入っていきますが、プジョー205ターボ16やランチア・デルタS4など、4WDマシンが主流に。
1990年代に入ると、ランチア・デルタインテグラーレ、スバル・レガシィRS、インプレッサWRX、三菱・ギャランVR-4、ランサーエボリューション、トヨタ・セリカGT-FOUR……などなど、ほぼすべてのマシンが4WDの市販車をベースとしたものになります。もちろん今もその流れは変わらず、4WDが主流です。
アウディ・クワトロが残した功績は計り知れない
四輪駆動は、4つの車輪に駆動力を適切に配分することで効率のいい走行ができることから、冒頭でもお話ししたような日産GT-Rやホンダ・NSXといったハイパフォーマンスカーを、速く安全に走らせるデバイスとして定着しました。また、ボルボS90やメルセデス・ベンツSクラスのようなサルーンにも採用されています。もちろん、ハイパフォーマンスカーのR8を含めたアウディの各モデルにも。
悪路走破のためではなく、速く安定した走りのために4WDを導入したアウディの、そしてアウディ・クワトロというモデルが残した功績の大きさは、いま4WDを採用するクルマの数々を見れば、説明するまでもないでしょう。
text by 木谷宗義+Bucket
photo by アウディジャパン
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