メルセデス・ベンツ、BMWとともに「ドイツ御三家」のひとつとされるアウディ。その歴史はエンジニア、アウグスト・ホルヒが1899年にHorch & Cie. Motorwagen Werke(ホルヒ&チエ自動車工業)という会社を設立したところから始まります。しかし、4つのリングが連なる現在のロゴマーク「フォーシルバーリングス」は、創業時から使われていたものではありません。4つのリングは、4つの会社が集まってできたことを意味しているのです。
アウグスト・ホルヒが興したホルヒとアウディ
その4社は、「ホルヒ」「アウディ」「ヴァンダラー」「DKW」。「ホルヒ」は、その名の通り、アウグスト ホルヒが設立した会社ですが、実は「アウディ」もホルヒ氏が興した会社なのです。
ホルヒ853クーペ(レプリカ)
ホルヒ氏は、技術開発やモータースポーツ活動を積極的に行っていましたが、金に糸目をつけないこの方針によりホルヒ社の経営陣と対立。1901年に初めてホルヒ社が自動車を製作してから、わずか8年後の1909年、ホルヒ氏は自ら設立した会社を去り、翌1910年に新たな会社「アウディ」を設立することとなります。ちなみに「ホルヒ」とは、「聞く」を意味するドイツ語でもあって、「アウディ」は同様の意味を持つラテン語の言葉です。
モーターサイクルから発展した「ヴァンダラー」「DKW」
「ヴァンダラー」は、1885年に自転車修理工場としてスタート。すぐに自転車製造に乗り出し、1902年にはモーターサイクル製造を開始。1913年に小型2シーター「プップヒェン」で自動車メーカーとなった会社です。
Wanderer W3, 5/12 hp
「DKW」は、1902年の創業。当初はスチームエンジンや自動車部品を製造していましたが、1916年からスチームエンジンで走る自動車の研究を開始し、やがて生産の主体は2ストロークエンジンに。1922年にそのエンジンを搭載したモーターサイクルを販売し大成功を収めると、1928年にDKW初の小型四輪自動車を発表しています。
1932年、合併・吸収によりアウトウニオンに
第一次世界大戦後、数多くあったドイツの自動車メーカーは、統廃合や廃業が相次ぎました。
そして1932年、「ホルヒ」「アウディ」「DKW」の3社が合併し、「アウトウニオンAG」となります。そこにDKWが吸収され、4つのブランドがひとつのグループに。このとき、4つのリングが連なる「フォーシルバーリングス」が生まれました。
フォーシルバーリングスがなかった時代もある
1932年にフォーシルバーリングスが誕生し、今に至るまでずっとこのロゴマークが使われてきたわけではありません。実は、1969年に「NSU(エヌエスウー)」を吸収して、「アウディNSUアウトウニオンGmbh」となったとき、会社のロゴマークとしてのフォーシルバーリングは一度、姿と消します。
2009年から採用されている現在のロゴ
アウディブランドのエンブレムとしては継続して使われていましたが、会社のロゴマークとして再び使われるようになったのは、なんと1994年のこと。1985年に会社名を「アウディAG」として以降も、しばらくは赤い楕円に「Audi」の文字が入ったロゴマークが使われていたのです。歴史あるエンブレムが存在している背景には、数々の歴史的な出来事や意味があったわけですね。
text by 木谷宗義+Bucket
photo by アウディジャパン