【豆知識】先進的な設計だったスバル初の量産車「スバル1000」

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水平対向エンジンは、インプレッサやレヴォーグを始めスバルが自社開発するすべてのクルマに搭載される、スバルの代名詞とも言えるエンジンです。その歴史は古く、初搭載された市販車が登場したのは、1966年。「スバル1000」という乗用車に採用されていました。スバル初の市販小型乗用車であるスバル1000、エンジンだけでなく駆動方式や車体設計なども画期的な技術が採用されたユニークなクルマだったのです。

目次

国産FFの先駆け

国産車ではFR(後輪駆動)方式が当たり前だった1960年代に、スバル1000はFF(前輪駆動)を採用していました。その狙いは室内空間を広くとること、そして優れた操縦性と走行安定性です。

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スバル1000 4ドアスタンダードセダン(1966年)

FFは、エンジンやトランスミッションといったパワートレインがすべてフロントに集約され、キャビンの下を通るプロペラシャフトも後輪のデファレンシャルギアも不要であるため、広い室内やトランクを実現することができるのです。

しかしFFは当時、操縦性と安定性に優れると注目されていた反面、技術的な課題も多い方式でした。フロントに重量物が集中することから、ステアリングが重くなる、振動が伝わりやすいといった問題があったのです。また、横置き方式のエンジンでは、左右の重量バランスが悪く転倒しやすいことも課題でした。

スバルは、理想のクルマを作るため、この課題に挑戦します。そこで導き出されたのは、水平対向エンジンの採用でした。

今につながる「走り」へのこだわり

水平に配置され、向かい合うピストンを持つ水平対向エンジンは、小型軽量であることやスロットルレスポンスに優れるといった利点があります。さらに往復するピストンが左右対称となるため、動的なバランスが取りやすく振動がでにくいことも特徴です。

スバルは、この水平対向エンジンを縦置きに配置することで左右バランスの問題を解決。このエンジンをフロントのオーバーハング(車軸より前)に搭載することで、それまでのFFのデメリットを解決し、1000ccながら1500ccクラス並みと言われた広い室内を実現することができたのです。

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スバル1000 2ドアバンデラックス(1968年)

ちなみにここで生まれた水平対向エンジン縦置きというレイアウトが、現在のスバルのクルマ作りの根底にある「シンメトリカルAWD」に繋がります。

さらにスバル1000は、フロントに「インボードブレーキ」を採用したことも特徴です。一般的なブレーキは、デファレンシャルギアから伸びたプロペラシャフトの先端、すなわちホイールの内側に配置されるのですが、インボードは車体側に配置されたブレーキからシャフトを伸ばし、そのままホイールに繋げるというもの。

ブレーキがホイールから離れることで、泥や水が入ることも少なくなり、ハンドルの切れ角も拡大。同時にバネ下重量が低減されるため、タイヤの接地性が高まり加速や乗り心地、走行安定性も向上しました。走りの良さに定評のあるスバルの原点がここにあると言ってもいいかもしれません。

幻の乗用車「スバル1500」

冒頭で、スバル1000がスバル初の「市販小型乗用車」であるとお伝えしました。実はこのスバル1000の前にも、乗用車を開発していたのです。それが「スバル1500」(コードネーム:P-1)。スバル1500は、直列4気筒エンジンを搭載するFR方式ではあったものの、国産初のフルモノコックボディを採用するなど、意欲的なメカニズムを持ったクルマでした。

スバル1500は、スバル360が登場するよりも前となる、1954年に発表され、市販化が予定されていましたが、諸般の事情から市販はされず、幻の乗用車となったのです。ちなみに、「スバル」の名を冠したクルマは、このスバル1500が最初。

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スバル360 増加試作型(1958年)

スバルは、スバル1000を開発する前にも、1500ccクラスの乗用車(コードネーム:A-5)を開発しますが、スバルの企業規模ではトヨタや日産に対抗できないと判断され、こちらも市販化を断念しています。なお、P-1もA-5もスバル1000も、スバル360を手掛けたことでもしられる、百瀬晋六氏が手がけていました。

先日、スバルを代表する乗用車「インプレッサ」が5代目に進化しました。エクステリアはよりスタイリッシュになり、次世代のスバルを見据える「スバル・グローバル・プラットフォーム」を採用。しかし、根っこの部分にある水平対向エンジンとFFレイアウトは、スバル1000のころから変わりません。50年以上前に生まれたこのレイアウトが、いかに先進的かつ優れた形だったかがわかりますね。

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text by 阿部哲也+Bucket
画像提供:富士重工業

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