「パーソナルモビリティ」という言葉を聞いたことはありませんか? 立ち乗り電動2輪車「セグウェイ」の出現により日本でも知られるようになったパーソナルモビリティは、さまざまな交通問題を解決する可能性を持つ、自動車でもバイクでもない新たな乗り物として注目されています。では、一体どんな乗り物なのでしょうか?
都市部の交通環境を一気に改善?
パーソナルモビリティとは、1~2人の使用を想定した超小型のクルマ。用途を考えると、電気モーターによるEV(電気自動車)が一般的になると考えられます。
一般的なパーソナルモビリティの全長は、2~2.5mと乗用車のおよそ半分。全長が短くなれば渋滞解消に役立ちますし、駐車するのも小スペースで済みます。都市部で慢性的な問題となっている渋滞と駐車場問題を解決してくれる可能性があるのです。
排ガスを出さないEVであることも、都市部の大気汚染を抑止するためには有効。そもそも、小さくて軽い車体は省エネルギーで走行することが可能ですから、温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)排出量低下も期待できます。
まだパーソナルモビリティ向きの駐車場が整備されていないなど、課題は少なくありませんが、渋滞や駐車スペースなどの都市環境問題の解決に期待が持てる存在です。また、地方では高齢者の日常の足として使われる可能性もあるでしょう。
どちらの使われ方にしても、短距離での移動がメインになるため、EVのデメリットである“航続距離(1回の充電で走れる距離)の短さ”は、あまり問題になりません。
クルマとバイクの「いいとこ取り」のi-ROAD
現在、自動車メーカー各社は、さまざまなパーソナルモビリティを開発し、実証試験などを行っています。ここでは、パーソナルモビリティとして開発されたモデルをいくつか紹介しましょう。まずは、トヨタ・i-ROAD。テレビCMや雑誌などでは目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
i-ROAD
「クルマとバイクのいいとこ取り」がi-ROADの特徴。最大2人乗り(欧州)で、バイクのように細い車体は狭い都市部での機動性も抜群。後輪が操舵し、コーナリング時は遠心力に対抗するためにバイクのように車体が傾くのがユニークです。電気モーターを動力とし、一回の充電で約50kmを走行することができます。
i-ROADは、お台場・トヨタのショールーム、メガウェブで実際に体験試乗できる他、カーシェアリングサービスで実証実験も行われており、もっとも実現に近いパーソナルモビリティと言えそうです。なおトヨタは、このパーソナルモビリティプロジェクトを「Ha:mo(ハーモ)」と名付け、東京や豊田市などで実証実験を進めています。
Ha:mo
またトヨタには、トヨタ車体が製造する「コムス」という超小型EVもあります。こちらは、セブンイレブンの配送車として使われるので、実際に見たことがある人もいるかもしれません。上の写真のクルマもコムスです。
パーソナルモビリティは、“クルマ”だけにあらず
i-ROADやコムスはクルマに近い存在ですが、こんなパーソナルモビリティもあります。トヨタはi-ROAD以外にも、「Winglet(ウィングレット)」というパーソナルモビリティを開発しました。セグウェイと同じように、横に並んだ2つの車輪がセンサーにより常にバランスをとっているため、直立状態でも転倒せず、さらに体重をかけた方向に自動で進んでくれます。
Winglet
ホンダもまたユニークなパーソナルモビリティを開発しています。
「UNI-CUB(ユニカブ)」と名付けられたこのモビリティは、「動く椅子」といった形をしているのが特徴。人が座ったまま、前進後進や左右旋回に加えて転回も可能で、クルマの代わりというよりは、オフィスや工場の中を移動する新しい移動手段として考えられるものです。現在は初期型のユニカブからさらに開発が進み、より小型で使い勝手の良い「UNI-CUB β(ユニカブ ベータ)」が登場しています。
UNI-CUB
パーソナルモビリティは、慣れ親しんだ道路の交通環境を変えるだけではなく、人々の普段の移動をも変える可能性を持っています。都市環境問題の解消に、高齢者の日々の足に、そしてUNI-CUBのような新しい移動手段にと、様々な形で私たちの暮らしを変えてくれそうです。乗り物と人が寄り添った豊かな未来。その実現は、すぐそこまで迫っています。
text by 阿部哲也+Bucket
写真提供:トヨタ自動車、本田技研工業