【豆知識】MT、AT、CVT…多様化するトランスミッションの種類と特性

6速MT

昔は「トランスミッション(変速機)」と言えば、MT(マニュアル)とAT(オートマチック)ぐらいしかなかったものです。しかし、今はクルマの性格や用途に合わせて、さまざまな種類が登場しています。トランスミッションひとつで、乗り心地や走る楽しさも大きく変わるといっても過言ではありません。今回は、数あるトランスミッションの種類と特性をおさらいしてみましょう!

目次

もっとも基本となるMT(マニュアルトランスミッション)

もっとも基本となるトランスミッションの形が、MT(マニュアルトランスミッション)です。手動でギア(減速比)を選んだり、クラッチペダルを操作して動力を伝達したり遮断したりと、変速にまつわる動作をすべてドライバーが行います。

6速MT
マツダ・アクセラの6速MT

昔は主流だったMTも、ATの進化とともにその割合は減少。日本でのAT車比率を見てみると、1985年のデータでは、まだAT車は48.5%に過ぎませんでしたが、1990年になると80%を超え、2011年にはなんと98.5%に! MTはわずか1.5%の希少なものとなりました。

しかし、すべてをドライバーが操作する「操る感覚」は、MTならではのもの。今もMTを愛するドライバーは少なくありません。また、機構がシンプルなため、生産しやすい、コストが安い、故障が少ない、修理がしやすいといったメリットも多く、途上国などではまだまだニーズの高いトランスミッションです。

「オートマ」のスタンダード、ステップAT

ひとくちにAT(オートマチックトランスミッション)と言っても、さまざまな種類が存在しますが、スタンダードな方式がステップATです。

6速AT
マツダ・アクセラの6速AT

機構としては、一般的にクラッチの代わりにトルクコンバーター(流体継手)と遊星歯車機構を組み合わせたもの。ステップATと呼ばれることがあるのは、MTのようにギアセットがあり、変速の段(ステップ)があるため。

2速からスタートしたATは、なめらかな走りや高効率化を図っていった結果、多段化が進んで今では6速や8速も当たり前に。メルセデス・ベンツやフィアット、ジャガー、ランドローバーなどでは9速ATが採用されており、10速ATを搭載するクルマの登場も、そう遠くはなさそうです。

コンパクトカーの主流になったCVT

ステップATの多段化が進む一方、日本のコンパクトカーや軽乗用車では、CVT(無段変速機)が主流となりました。2ペダルで操作するATの一種ですが、ギアがなく、2つの可変径プーリーを組み合わせることで、連続的に無断階に変速ができるトランスミッションです。

CVT
ホンダ・N WGNのCVT

無段階に変速ができるため、エンジンのもっとも効率のよい回転域を合わせて走行でき、燃費のいい走りを実現できます。ただし、ギア比が一定の場合、他のトランスミッションに比べて伝達効率が落ちるため、高速道路などで長距離を走るケースが多いヨーロッパやアメリカのクルマでは、あまり採用されていません。

MTからクラッチペダルをなくしたAMT

ヨーロッパのコンパクトカーでよく用いられるのが、AMT(オートメイテッド・マニュアルトランスミッション)です。RMT(ロボタイズドMT)などとも呼ばれるこの方式は、MTの機構に電気や油圧で動くアクチュエーターを追加し、変速やクラッチ操作を自動化したもの。

ASG
フォルクスワーゲン・UP!の5速ASG

仕組みがシンプルなため低コストでできる反面、クラッチ操作を機械が行うため、ステップATやCVTと比べるとスムーズさに欠けるというデメリットもあります。

日本ではスズキが「AGS(オート・ギア・シフト)」の名でアルト、キャリィ、エブリーに搭載。輸入車では、フォルクスワーゲンUP!に採用されるASG、フィアット500やパンダに採用されるデュアロジックがこの方式です。なお、MTの名が付きますが、AT限定免許で乗ることができます。

2つのクラッチで素早い変速を可能としたDCT

フォルクスワーゲンが「DSG」で先陣を切り、ポルシェの「PDK」を始めヨーロッパ車で多く採用される「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」は、その名の通り、2つのクラッチを持つトランスミッションです。

DSG
フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーランの7速DSG

奇数段(1速、3速、5速)を受け持つ出力軸と、偶数段(2速、4速、6速)を受け持つ出力軸を別に持ち、それぞれにクラッチを配置するのがその機構です。

速から2速に変速するとき、奇数段のクラッチを離した瞬間に、偶数段のクラッチをつなぐことができるため、素早い変速を可能としています。伝達効率がよく変速スピードも速いため、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレン、メルセデスAMGといったスーパーカーは、こぞってこの方式を採用。日本車では、フィットやヴェゼルなど、ホンダがハイブリッドと組み合わせて採用しています。

DCT
ホンダ・フィット ハイブリッドの7速DCT

マニュアル派vsオートマ派の議論はもう古い!?

「マニュアル派vsオートマ派」で議論が交わされていたのも、もう昔の話。多段かつ変速スピードの速いATやDCTの登場によって、性能面でMTが優位に立てる場面が少なくなってきています。でも、冒頭でも述べたように、「機械を操る楽しさ」を愛する人たちも決して少なくありません。デジタル化が進んでも機械式腕時計が残っているように、MTが無くなることはなさそうです。みなさんは、どんなトランスミッションが好きですか?

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text by 木谷宗義 photo by フォルクスワーゲン グループ ジャパン、本田技研工業、マツダ

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