メルセデス・ベンツ「E350e」「GLC350e」にBMW「i8」「530e」「740e」「225xeアクティブツアラー」「X5 xDrive 40e」、ミニ「クーパーSEクロスオーバーALL4」、フォルクスワーゲン「ゴルフGTE」「パサートGTE」。そしてポルシェ「パナメーラ4 Eハイブリッド」に「パナメーラターボS Eハイブリッド」。
ここに挙げた車種には“ある共通点”があります。それは、日本で購入できるドイツメーカーのプラグインハイブリッドカー(PHEV)だということ。
日本において、日本メーカーから販売されているプラグインハイブリッドカーがトヨタ「プリウスPHV」、三菱「アウトランダーPHEV」そしてホンダ「クラリティPHEV」のわずか3モデルだけしかないことを考えれば、ドイツ車の充実ぶりに驚きますね。しかし、なぜドイツ車にプラグインハイブリッドカーが多いのでしょうか?
そもそもプラグインハイブリッドカーとは?
まず、プラグインハイブリッドカーがどんなクルマかを説明しましょう。プラグインハイブリッドカーとは、動力源として車体にエンジンとモーターを備えています。その意味ではハイブリッドカーと同じですが、ハイブリッドカーとの違いはバッテリーの容量が大きく作られていることと、そのバッテリーに家庭の電源や公共の充電器から電気を供給して充電できること。コンセント(プラグ)を接続できるから「プラグイン」と呼ばれるのです。
バッテリーに電気を多く充電された状況では、エンジンを停止して電気自動車のようにモーターだけで走行できます。そんな電気自動車の感覚を備えつつ、電気自動車とは違って外部充電しなくても燃料を給油すれば長距離を走るので一般的なクルマと同じ使い勝手を実現。プラグインハイブリッドカーは、そんなハイブリッドカーと電気自動車の“いいとこどり”のクルマなのです。
ポイントは環境意識と燃費規制
では、プラグインハイブリッドカーがドイツメーカーに多いのはなぜでしょうか?ひとつは、クルマを使う環境の違いです。
ドイツは環境意識の高い国。電気自動車があれば走行中に排出ガスを出さないので環境にやさしいのは言うまでもありませんし、ドイツメーカーもBMW「i」のように電動車専門ブランド(プラグインハイブリッドも含む)を立ち上げるなど、電気自動車を本格普及させようとしている気配もあります。しかし、ドイツは日本よりもクルマで長距離移動することが多く、また高速道路の平均速度も高い地域。それは後続距離に制約があり、速度が上がるほど効率が悪化して電気を多く消費するEV(電気自動車)には厳しい使用状況なのです。
また、日本ほど急速充電器も普及していないので、電気自動車に乗って途中でバッテリーを充電しながら長距離を移動するのは現実的ではありません。だから、近距離は電気自動車のように燃料を使わず走れ、遠距離は通常のエンジン車と同じ使い勝手のプラグインハイブリッドカーが環境車として最適なのです。
もうひとつは、排出ガス規制(CO2削減)への対応。ユーザーの利便性だけを考えれば、わざわざモーターを積んだ電動車両としなくても、純粋なエンジン車だけで事足ります。コストパフォーマンスでいっても、購入時の補助金を考慮しなければ、バッテリーやモーターの搭載で高くなった車両価格の元を燃料代で取るのは難しいでしょう。しかし、自動車メーカーとしてはそうはいっていられません。
2021年から欧州で導入される予定の燃費規制により、そのメーカーが生産した車両の平均としてCO2を削減して目標値を達成しないと、巨額の罰金を科せられることになります。しかし、プラグインハイブリッドカーは平均燃費の計算方法がガソリン車やディーゼル車よりも有利で、いわば「ボーナス」のような存在。だから、メーカーが本腰を入れて販売しようとしているのです。
日本でも選択肢が増えるのは嬉しい
もちろんこれは欧州で販売される車両の話であり、日本には直接関係ありません。しかし、ドイツ車メーカーは「せっかく開発したのだから日本でも販売して環境イメージに貢献しよう」と日本でも販売しているのです。選択肢は増えることは、うれしいことですね。
ちなみに、欧州においても日本メーカーはプラグインハイブリッドのラインナップが多いわけではありません。上記3モデルを販売している程度です。
しかし、多くの日本メーカーが2021年からの燃費規制に焦っていないのは、そもそも現地で販売している車種の平均燃費がドイツメーカーよりも優れているから。その理由がハイブリッドカーの豊富さで、例えばトヨタやホンダは販売している多くの車種にハイブリッドを設定。トヨタの欧州主力モデルである「オーリス」なども、いまでは販売の半分以上がハイブリッドなのです。
text:工藤貴宏
edit:木谷宗義
photo credit:BMW