自動車にとって安全装備は「転ばぬ先の杖」といえるかもしれません。使わない(使う状況がない)に越したことはありませんが、万が一の際に最悪の状況になるのを防いでくれるからです。
安全装備とひとくちに言っても、クルマに搭載されている安全装置はおおきく2つにわけることができます。ひとつは「パッシブセーフティ」と呼ばれる、事故が起きてからダメージを最小限に済ませるもの。シートベルトやエアバッグ、衝撃吸収ボディなどがその代表例です。
もうひとつは「アクティブセーフティ(予防安全)」と呼ばれるもので、事故が起きるのを未然に防ぐ仕掛け。ここで紹介する「BAS(ブレーキ・アシスト・システム)」と「ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール=横滑り防止装置)」は後者の「アクティブセーフティ」に数えられるものです。
緊急性を判断してブレーキを強めるBAS
ブレーキアシストとは、強いブレーキが必要な際において、もしペダルの踏み方が弱かったとしても強い力をブレーキに伝えて制動距離を短くする仕掛けのこと。主に衝突を回避するために短い制動距離ではやく止まりたい状況において、ブレーキを踏む力が弱いドライバーが運転しているときに作動します
ドライバーがブレーキペダルを力いっぱい踏めばブレーキ力が強くなるのだから、そんな装置いらないのでは?と思うかもしれません。しかし、現実にはブレーキペダルを思い切り踏めないドライバーが多くの割合で存在します。
これは単に足の力が弱いからではなく、「緊急時に身体が硬直して思い通りに動けなかった」「強いブレーキを掛けた経験がないからとっさのときにどうしたらいいかわからない」「教習所で急ブレーキはかけてはいけないと教わったから」などの理由で緊急時でも強くブレーキペダルを踏めないドライバーがいるのです。
そこで、緊急ブレーキであることを車両が判断し、ブレーキペダルを踏む力が弱くても強くブレーキを効かせるのがBASです。「ブレーキを思い切りかけるとタイヤがロックしてコントロールを失い危険」と思う人がいるかもしれませんが、心配はいりません。ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動するため、ハンドル操作はしっかり効きます。
ちなみに、ドライバーが緊急時で強いブレーキを求めているのかどうかは、ブレーキペダルを踏むスピードで判断しています。衝突を回避するためのブレーキはいつもより素早い勢いでペダル踏むので、その“踏み込みの速さ”を判断してBASを働かせるのです。なお、このBASを世界で最初に実用化したのは日産で、1997年のことでした。
エンジン出力やブレーキを制御してスリップを防ぐESC
ESC(横滑り防止装置)は、タイヤのスリップを未然に防ぐという考え方による装置です。単独事故の中でも、タイヤのスリップに起因する事故は多いもの。タイヤがスリップするとドライバーのコントロールが効かなくなり、クルマは糸の切れた凧のように制御不能になってしまいます。
ESCは、タイヤがグリップの限界に近付いてスリップしそうなことを車両が検知すると、エンジンの力を弱めたり4本のタイヤそれぞれに独立してブレーキを効かせたりしてスリップを防ぎ、コントロールを失わないようにしてくれる“縁の下の力持ち”というわけです。
滑りやすい路面などで特に作動することが多く、また危険回避の急ハンドルなどで車両がスピンしたり、反対にハンドルをきっても曲がらない状況になったりするのを防ぎます。
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すごいのは、制御がどんな卓越した運転技術を持つドライバーよりも巧みなことです。なぜなら4本のタイヤそれぞれに独立してブレーキを掛けるという、人間にはどう逆立ちしてもできない領域まで踏み込んでいるから(とはいえどんな状況でもスリップしないわけではありません)。
トヨタはVSC、スバルや日産はVDC、ホンダはVSA、マツダではDSC、ダイムラー、フォルクスワーゲン、スズキなどはESPといった具合に、メーカーにより呼び名が異なるのでわかりづらいですが、総称としてESCと呼ばれています。このあたりは、メーカー各社による表記の統一を期待したい部分ですね。
現在の新車にはBASもESCも装備されている
BASもESCも、現在日本で販売している乗用車には全車に備わっています。普通車(登録車)は2014年10月1日以降、軽自動車でも2018年2月24日以降に生産される車両には装備が義務化されたのです。
このふたつの装備の効果は大きく、多くの事故を減らすことができました。そしてまだ義務化はされていませんが、急速に普及率が高まっている追突被害軽減ブレーキと合わせて、クルマの事故はさらに少なくなっていくことでしょう。
text by 工藤貴宏 edit by 木谷宗義
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