【豆知識】「緑の地獄」と「スポーツカーの聖地」、2つの顔を持つ「ニュルブルクリンク」
ドイツに「ニュルブルクリンク」と呼ばれるサーキットがあります。「ニュル」という略称で呼ばれることも多いこのサーキットの愛称はふたつあり、ひとつは「緑の地獄(英語で“Green Hell”/現地ドイツ語では“Grune Holle”)」、もうひとつは「スポーツカーの聖地」。そのなんとも意味深なふたつのキーワードから、このサーキットの特殊性を読み取ってみましょう。
常識はずれの過酷さを持つグランプリコース
なぜ「緑の地獄」と呼ばれるのか? 答えは簡単です。サーキットが常識から大きく外れて過酷だからです。ニュルブルクリンクには一般的なサーキットである「グランプリコース」と山岳地帯を切り開いた「北コース(ノルドシュライフェ)」と2つのコースがあり、常識外に過酷なのは前者。
過酷な理由はいくつもありますが、まずはコースの長さ。北コースは1周がなんと20kmを越えます(20.832km)。日本を代表するサーキットの富士スピードウェイ(4.6km)や鈴鹿サーキット(5.8km)と比べてみると、とんでもない長さだとわかります。しかし、過酷なのは単に長いからではありません。コースの状況があまりにも危険なのです。
山岳地帯を切り開いて作られたことで、コースの高低差は約300mとサーキットとは思えないほどのアップダウンがあり、中には急勾配も存在。そのうえコーナーの数が172個もあり、多くが前方の見えないブラインドコーナーなので危険が伴います。しかも、コース幅やエスケープゾーンが狭いためコースアウトしやすく、コースアウトすると高い確率で車体が損傷を受けてしまうのです。
また、一般的なサーキット違って路面は荒れており、埃が積もっていることもあって滑りやすいことも事故を起こしやすい理由となっています。まるで過酷な峠道のように危険なサーキットであり、森の中にある。それが「緑の地獄」と呼ばれる理由なのです。
かつてはF1も北コースで開催されていましたが、あまりに過酷なコースゆえに大事故が起こり、1967年を最後に北コースでのF1は開催されていません。「緑の地獄」はF1を開催できないほど危険なコースとも言えるのです。
過酷さを逆手に取って新型車を鍛える
一方で、その環境の過酷さゆえに新車開発のテストコースとして使われることでも有名。厳しい環境だから、ニュルブルクリンクで走行テストを行うとそのクルマのウィークポイントが如実に表れ、そこを改良することで車両の完成度を高められるからです。トヨタC-HRやもうすぐ登場する次期クラウンなど、スポーツカーではないモデルも動的性能を高い水準に引き上げて弱点を克服するために、ニュルブルクリンクを走り込んで作り上げています。
そして、スポーツカーではニュルブルクリンクでのテストの締めくくりとして、タイムアタックが行われることも多くあります。日産GT-Rやホンダ・シビックType Rは「量産市販車最速」や「FF最速」のタイトルをアピールしていますが、タイムアタックはスポーツカーにとってニュルブルクリンクの卒業試験のようなもの。世界中のスポーツカーがタイムアタックを行うゆえに「スポーツカーの聖地」と呼ばれるのです。
ニュルブルクリンクは誰でも走れる!
そんなニュルブルクリンクの歴史を紐解けば、作られたのはなんと第二次世界大戦よりも前というから驚きですね。第一次世界大戦後に訪れた不景気の経済対策として、特筆すべき産業のなかった「アイフェル」と呼ばれる丘陵地帯に“公共事業”として作られました。建設がはじまったのは1925年です(北コースができたのは1927年)。
こうしてニュルを知ると特別な場所のようにも思えますが、実はレースや新車開発の場として使われるほか広く一般に開放されており、一周27ユーロ(約3500円)を払えば誰でも走ることが可能。クルマにも制約はなく、高性能車やサーキット仕様の車両はもちろんのこと、ツアーの観光バスや、なぜか荷物運搬用のバンなどもスポーツ走行を楽しんでいます。ニュルブルクリンク、そこは過酷なサーキットであると同時にクルマ好きのパラダイスなのです。
text by 工藤貴宏 edit by 木谷宗義
photo by SUBARU,ポルシェジャパン,本田技研工業
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