電気自動車(EV)や自動運転を進める日産は、古くから「技術の日産」と言われてきました。特に1990年代は、その高い技術力からさまざまな「名車」と呼ばれるクルマを生み出してきましたが、その原動力となったのが「901運動」
技術で世界一を目指す
901運動とは、1980年代に日産が掲げた「1990年までに技術力で世界一を目指そう」という目標のこと。1970年代までの日産は、“ハコスカ”スカイラインGTRのレースでの活躍を始め、技術力の高さに定評がありましたが、ライバルたちの攻勢もあり国内シェアは低下。そこで持ち上がったのが901運動でした。
このままの車作りを続けていたのでは1990年代は生き残れないと確信した日産は、エンジンやシャーシ、サスペンション、ハンドリングなどすべての品質を向上させることに心血を注ぎ、世界のメーカーも驚いた現代にも語られる素晴らしいクルマが生み出されていくのです。
世界で認められた2代目マーチ
1992年に2代目にフルモデルチェンジされたマーチ。初代とは打って変わって曲線的でモダンなデザインとなったのが特徴。それまでのコンパクトカーといえば安くてものもよくないというイメージがありました。
マーチ(1993年)
しかし日本のライバル車だけではなく、欧州車に肩を並べる性能を目指して開発されたマーチは、そのボデイに見合わない高い快適性や走行性能の良さなどでそれまでのイメージを払拭し、1992年の日本カーオブザイヤー、RJCカーオブザイヤー、1993年の欧州カーオブザイヤーの3賞を受賞する日本車初の快挙を成し遂げました。
欧州車超えのハンドリング性能をもったプリメーラ
1990年に登場したプリメーラは、欧州市場を意識して作られた4ドアセダン。ドイツ車のようなスタイリングも特徴のひとつですが、プリメーラが評価されたのはハンドリングの良さでした。フロントに「マルチリンクサスペンション」が組み込まれたおかげで、その旋回性能は国産でも群を抜いており、一部では欧州車を超えたとも評価されたとか。
プリメーラ(1995年)
このプリメーラは日本よりもむしろ欧州で高い評価を得て、1991年の欧州カーオブザイヤーでは、当時日本車として初の2位を受賞しています。
280ps規制のきっかけを作ったZ32型フェアレディZ
1989年に登場した4代目となるZ32型フェアレディZもまた、901運動の中で開発されたクルマです。
フェアレディZ(1998年)
スタイリングもパフォーマンスも「完璧」を目指して開発され、トップグレードには3L V6ツインターボエンジンを搭載。当時、国内最高の280psを誇り、のちの280ps自主規制が生まれる元にもなりました。
また、四輪マルチリンクサスペンションが採用された他、ツインターボモデルには4WS機能の「SUPER HICAS(スーパーハイキャス)」機構を搭載し、理想的なコントロール性能が追求されました。
無敗の伝説を作ったR32型スカイラインGT-R
901運動が生んだ偉大なる名車といえば、やはり1989年に登場したR32型スカイラインGT-Rです。
スカイラインGT-R(1989年)
世界最高のFR車と言われる「ポルシェ944ターボ」をライバルに掲げ、レースで勝利することを目的に開発されたR32型GT-Rは、名機と言われる2.6L 直6ツインターボエンジン「RB26DETT」や電子制御4WDシステムの「ATTESA E-TS」、「SUPER HICAS」やマルチリンク式サスペンションなど、当時日産が持てる技術を結集して開発されました。そして、国内のみならず海外のレースで圧倒的な強さを誇り、技術の日産のイメージを世界に発信したのです。
901運動からは、この4車種だけではなく、シルビア(S13型)や180SX、セドリック/グロリア(Y32型)、レパード(F31型)なども登場し、日産の黄金期を作り上げました。
セドリック(1991年)
それから日産は苦境の時代を迎えますが、901運動で作り上げた技術やそこから生まれた名車の数々は、今でも世界に誇れるものです。先日、エンジンを発電機として使用し、電気モーターで走行する新ハイブリッドシステム「e-Power」をノートに搭載すると発表した日産。901運動を通じて培った技術力で、今後どのようなクルマを生み出してくれるのか、期待が高まります。
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text by 阿部哲也+Bucket
画像提供:日産自動車、日産ヘリテージコレクション