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【クルマ同人誌】『極東ロシアじどうしゃ #異世界転生編』~文化継承へのメッセージが詰まった不思議で楽しい写真集~

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「極東ロシアで出会った”日本製中古車”の数々!最近、巷で見かけなくなったアノ車…ほっとして、ここで生きてます!?」。これは、クルマ同人誌『極東ロシアじどうしゃ #異世界転生編』(著:編集/サークルINPINE)の表紙に書かれた一文です。表紙をめくるといきなりロシア・サハリンの街を走るちょっと懐かしい日本車の姿が!

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この『極東ロシアじどうしゃ #異世界転生編』は、2017年12月の冬コミケ「コミックマーケット93(C93)」で発表されたちょっと変わったクルマ写真集で、twitterを中心に話題となったもの。「なぜロシア?」「一体どんな本なの?」と気になりますよね。そこで、この本を製作した同人サークル「INPINE(インパイン)」のTUNA(つな)さんを突撃しました!

日本車の「第二の人生(車生)」がそこにある

TUNAさんは、1990年生まれの27歳。それでいて「1990年代のクルマが好き」というクルマ好き(愛車は1990年代のトヨタ・ソアラ30型!)。2014年に学生時代の友人と結成したサークル「INPINE」で、イラストを発表したり同人誌を出版してコミケに出展したりと、勢力的に活動されています。

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クルマ自体もさることながら、クルマ文化にも興味を持って、中国、フランス、ドイツ、アメリカ、カナダなど世界を旅して”現地のクルマ”の写真を撮ってきたそう。その中で、ロシア・サハリンにフォーカスして作られたのが『極東ロシアじどうしゃ』。では、なぜサハリンに?

「僕は北海道出身で、『北海道からロシアへ中古車輸出が盛んだ』というニュースをテレビでよく見ていていて、それが興味を持ったきっかけです。輸出されていく悲しさと一緒に、『新天地でがんばれよ!』という思いも抱いていました。またロシアでは、日本車がリスペクトされていて、独自の解釈で中古車文化が広がっているんです。そんなところにおもしろさを感じたんですね」

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日本から輸出された中古車が多く、少し懐かしいクルマがたくさん走っている

TUNAさんによると、日本なら15万円ほどで買えるマークII(100系や110系)が100万円以上の価格で販売されているなどロシア、特にサハリンで日本車が大切にされているそう。独特のカスタマイズも多く、「日本車の第二の人生(車生)」がそこにあるのだとか。

「You Tubeで現地のカスタマイズ文化を知って、『実際に見に行きたい!』と2017年夏に3泊4日の取材旅に出かけました。今回は、飛行機ではなく船で行きたかったので、サハリン・ユジノサハリンスクへ。稚内から4時間ほどで行けるんですよ!」

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メルセデス・ベンツの姿も見えるが、走っているクルマのほとんどは日本車だ

ユジノサハリンスクでは、1日目こそ現地のガイドさんについてもらったそうですが、あとの3日は完全な一人旅。街を走るクルマだけでなく、オフ会スポットになっている公園に毎日足を運んだり日本のオートバックスのようなカー用品店に行ったり、現地のクルマ文化を肌で感じることができたそうです。

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こちらはオフ会スポットのひとつ。サハリンでもスバル車はクルマ好きに好まれるようだ

「ロシアでは社外パーツが充実しているのですが、日産・ルネッサやプレーリージョイといった、ちょっと懐かしい日本のファミリーカーのパーツも多くて、日本車の人気を感じましたね。毎日、夕方になるとクルマ好きの若者が集まる公園も印象的でした。カルディナばかりの日があったり、ハイラックスサーフやサファリが集まっていたり、毎日自然といろいろなクルマが集まってくるんです」

イラストや写真を通じて自動車文化を残したい!

3泊4日の取材旅で撮影した写真は、3000枚以上。その中のおよそ300枚が『極東ロシアじどうしゃ #異世界転生編』の中に詰まっています。ただ、写真が並べられているだけでなく、メーカー別になっていたり、カスタマイズを特集したページがあったり、TUNAさんならではの工夫もたくさん。でも、それだけに本ができるまでには苦労も多かったと言います。

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「カスタムおぷしょん」のページをチラ見せ。独自のカスタマイズ文化とともに日本からやってきた中古車が大切にされていることがわかる

「もともとイラストが描いていたので、デザインなどはわりとスムーズにできたのですが、写真を厳選したりロシア語を調べたりするのが大変でした。あとは、時間との戦いですね。毎日、仕事が終わったあとに取りかかっていたので……。最終的に印刷所に入稿したのは、コミケ開催の3週間前とギリギリでした」

しかし、苦労の甲斐あって評判は上々。現在は自身のサイトで販売する他、秋葉原と神保町で趣味の本を扱う書店「書泉」、中野ブロードウェイで自主制作本を扱う「タコシェ」でも取り扱われているのだとか。最後にTUNAさんの”これから”について伺うと、「取材して見た自動車文化を伝えていきたい」との答えが返ってきました。

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「よいこの・じどうしゃ」はINPINEにとって1作目の同人誌。TUNAさんのイラストが詰まった1冊

「これまでに3冊の同人誌を作ってきたのですが、どれもイラストや写真を通じて『自動車文化を残したい』という思いは一緒です。この先、EV化や自動車化が進んでいくと、きっと内燃機関のクルマに乗ること自体が贅沢な趣味になっていくと思うんです。そうすると、これまでのクルマ化やクルマそのものが忘れられてしまうこともありますよね。1台でも多くのクルマが残していけるような活動をしていきたいと思っています」

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「よいこの・じどうしゃ」でも「クルマの役目」について触れ、クルマ文化を考えさせてくれる

27歳にして世界各国の自動車事情を目にしてきたTUNAさんの言葉には説得力があり、これから本当に何かを成し遂げてくれそうな気概を感じました。これから生まれてくるであろう新たな同人誌も楽しみですが、まずは『極東ロシアじどうしゃ #異世界転生編』でTUNAさんの世界を覗いてみてくださいね!

text by 木谷宗義+Bucket
photo by INPINE, 木谷宗義

<関連リンク>
自動車写真andイラストサークルINPINE
https://inpine.booth.pm/
TUNAさんTwitter
https://twitter.com/INPINE000

▼【世界じどうしゃ人文学】Vol.01 極東ロシア・サハリン島とトヨタ その1 ~街行くクルマのベスト4~
https://car-days.fun/blog/article/9556