【ステランティス①】イタリア、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス……14種のブランドをもつ巨大グループ
『ここをチェック』
★多数のメーカーを傘下に収める一大グループ企業
★オペル、ヴォクスホールを含めると5カ国のブランドをもつ
★世界シェアは第4位に浮上
2021年にFCAとPSAが合併した巨大企業
かつてフィアットS.p.A.(※①)としてイタリア最大であった企業はアメリカのクライスラー社を買収、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の一部門となっていた。一方、フランスのプジョーは1976年にシトロエンを傘下に収め、PSAとしてプジョー、シトロエンの2ブランドを展開。のちにシトロエンの車名であったDSを独立したブランドとして3ブランド展開とした。2021年にはFCAとPSAが合併し、新たにステランティスとなったことで、合わせて14ブランドを展開する巨大グループとなった。ステランティスが扱う14のブランドは以下のとおりとなる。
アバルト(イタリア)
アルファロメオ(イタリア)
クライスラー(アメリカ)
シトロエン(フランス)
ダッジ(アメリカ)
DSオートモビルズ(フランス)
フィアット(イタリア)
ジープ(アメリカ)
ランチア(イタリア)
マセラティ(イタリア)
オペル(ドイツ)
プジョー(フランス)
ラム(アメリカ)
ヴォクスホール(イギリス)
ステランティスのCEOに就任したのはPSAでCEOを務めたカルロス・タバレス氏。PSAの前はライバルのルノーでCOOを務めた
補足情報
①S.p.A.
フィアットS.p.A.の「S.p.A.」とは、日本語でいう株式会社のこと。Societa’ per Azioniの頭文字だ。ちなみにイタリア語で有限会社は、Societa’ a responsabilita’ limitataで、略号「S.r.l.」となる。さらにちなみにいえば、ドイツの企業のAGというのも株式会社のことだ。
ステランティスとなる前にFCAが扱ったブランドはフィアット、アバルト、ランチア、アルファロメオ、クライスラー、ジープと多彩だ。またマセラティやフェラーリ、イヴェコなどはフィアットのグループに属するので、その企業規模の大きさは推して知るべしだ。
フィアットは1899年の設立から工業先進国のドイツやイギリスに追いつけ追い越せの精神で順調に成長してきたものの、’70年代のオイルショックと慢性的な労働争議により、経営が不安定に。新型車すら投入できない状況が続き、リビアのカダフィ大佐からの融資を受けることとなった。しかしその後、パンダとウーノという小型車の成功により持ち直し、’90年代のプントとブラビッシモの大成功で完全復活を果たしている。
一方クライスラーが設立されたのは1925年。GM出身のウォルター・クライスラーがビュイック社長を辞任し、マックスウェル社とチャーマーズ社を統合する形で誕生している。1928年にプリムスとデソートという二つのブランドを興すと、翌年にはダッジを買収。ラインアップを拡充し、勢力を強めていった。
GM、フォードに遅れて自動車製造ビジネスに参入したクライスラーは、両社に対抗する必要から「先進性が強いクルマ作り」を意識しているのが特徴。
オイルショックによりクライスラーは大ダメージを受け経営危機の窮地に陥ったが、1978年に新社長として迎え入れたリー・アイアコッカの手腕により奇跡的に回復。1987年にはAMCを買収するほどに。
再びの経営悪化により1998年、ダイムラーベンツと合併(※②) することになるが、2007年に解消。ちょうど世界金融危機発生の時期ということもあり、2009年には事実上の倒産に。同年に連邦倒産法により再生され、前述のようにFCAに再編されている。現在日本では、クライスラーブランドの新車販売は停止している。
補足情報
②ダイムラー・ベンツと合併
1998年にダイムラー・ベンツ社と合併してダイムラークライスラーAGに。対等合併ではあったが、事実上ダイムラーによる買収であった。しかし合併後、双方とも好業績をあげたのは初年度だけで、以後はどちらかが不振に。そして2007年5月、ダイムラーはクライスラーを手放した。
プジョーもシトロエンも別の産業からの参入
もともと農家だったプジョー家は粉挽き(※③)や織物、染物、搾油機、穀物製粉機などの工業に進出。1898年、アルマン・プジョーの手により同社初のクルマとなる蒸気三輪車セルポレ・プジョーを発表。1890年には蒸気機関をやめ、ダイムラー製のガソリンエンジンを搭載したプジョーブランド初のタイプ2を発売。1891年には会社名をそれまでの「プジョー兄弟社」から「プジョー兄弟の息子達の会社」に変更した。1900年には、プジョーの生産台数は、年間500台に達し、創業以来の累積で1296台を達成した。
補足情報
③粉挽き
さまざまな製品を作ってきたプジョーだが、粉挽きは今もその技術が生かされた商品が現在も発売されている。それはコショウを挽くためのペッパーミルやコーヒー豆を挽くためのコーヒーミル。歯の当たりを正確に行うには、きめ細かい加工が必要。プジョーのミルはプロも認める一級品として知られている。そしてこのミルを輸入しているのが、フェラーリの販売なども行っているコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドというのもおもしろい。
第一次世界大戦では戦車や飛行機のエンジン、砲弾、爆弾の製造なども行った。第二次世界大戦では1940年にソショー工場をドイツ軍が占領。1943年にはイギリス空軍により爆撃されるなどした。
一方のシトロエンはアンドレ・シトロエンが鋭角な山形に切り込まれた特殊な歯車「ダブルヘリカルギア(※④)」の製造で成功した資金をもとに1919年に創業。同年にタイプA/10CVというモデルを世に送り出した。
補足情報
④ダブルヘリカルギア
ダブルシェブロンと呼ばれるシトロエンのエンブレムだが、そのモチーフはアンドレ・シトロエンが財を成したダブルヘリカルギアをデザイン化したもの。何度かデザインを変更しているが、シルエットは生まれたときからずっとダブルヘリカルギアのモチーフが使われている。
アンドレは、「クルマはあくまで一般大衆のための便利な道具であり、クルマがあることで多くの人々の生活はより豊かなものとなる」との考えのもと、ヨーロッパ初の大量生産システムを導入。低価格で高品質なクルマの供給を実現した。
名車2CVは第二次世界大戦中に開発がスタート。ドイツにその技術を盗まれないように試作車の多くは破壊されたが、開発陣は戦後の必要性を感じ、開発は秘密裏に進められた。
1976年以来、プジョーとシトロエンはPSAとして1つのグループとなっていたが、2019年に状況は急転。フランスを代表する3つのブランド(プジョー、シトロン、DS)を有するPSAが、イタリア&アメリカブランドであるFCAと対等合併することが発表されたのだ。
この対等合併に対し、EUの欧州委員会は独占禁止法違反に当たるかなどの調査を始めたが、新型コロナウイルスのまん延による影響などで調査は一時停止。2021年1月には無事に両社の合併が完了した。
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農業機械から新聞まで全部フィアット?
イタリアのフィアットは、じつは自動車メーカー以外も傘下に収める巨大企業グループ。マニエッティ・マレリのような自動車部品メーカーはもちろん、農業・建設用の機械メーカーや、船舶用エンジンを製造するメーカーなどもグループ内に存在する。
それどころか製造業とは関係のない新聞や金融業までもあるのだから、その規模の大きさを想像することができるだろう。
トヨタも住宅やマリン、バイオ、ケミカルなど自動車以外の事業を手がけるように、企業体が大きくなると本業以外の業種にも業態を広げることも多くなってくるのが常なのだろう。
かつては家電や鉄道、航空機も手がけていたフィアット。1969年には宇宙関連分野も扱う国有会社となった。
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21世紀になって生まれた新しいブランド「DS」
DSと言えばかつてのシトロエンブランドを代表する名車。その独特なデザインは、多くのファンを獲得するとともに著名なカーデザイナーに大きな影響を与えたクルマだ。
1959年に生まれたDSはその歴史を一度閉じるが、21世紀になってDS3、DS4、DS5という新しいクルマを発表した。
当初はシトロエンブランドのなかでのDSというシリーズ名であったが、2014年にDSはブランドとして独立した。つまりPSAグループには、プジョー、シトロエン、DSという3つのブランドが存在することになり、2015年の東京モーターショーもそれぞれ独立したブースを作り、展示を行っていた。
例題/イヴェコはどこの国のトラックメーカー?
①ドイツ ②フランス ③スウェーデン ④イタリア(正解=④)
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