【ロシアのウクライナ侵攻で見えたグローバル化の落とし穴】市場喪失と工場閉鎖
日本メーカーは全撤退 今後どうなるかは完全に不透明
クルマだけではなく、あらゆる商品は普及していない地域に販売するのが効率のいいビジネスである。自動車産業にとっては、中南米、アフリカなどの新興国(※①)でのビジネスだけにとどまらず、ロシアは代表的な新市場であった。
冷戦終結後のソビエト連邦崩壊は、世界の国にロシアをはじめとした旧ソビエト連邦各国という巨大な市場の誕生であり、自動車産業もこぞって参入を果たした。旧ソビエト連邦各国をはじめとした東側諸国は、旧態依然とした自動車産業しか存在せず、市場としては大きな魅力であった。また自動車メーカーは自国生産車の輸出だけにとどまらず、工場の建設などの投資も積極的に行なった結果、最終組立工場だけでなく、多くのサプライヤーも進出した。
市場も生産現場も順調に成長していったロシアでのビジネスだったが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで状況は一変した。
世界の世論はロシアへの経済制裁を求めた。西側諸国の多くの企業はこの経済制裁に同調。日本の自動車メーカーもロシアへの輸出を停止、ロシア国内の工場も閉鎖。サプライヤーも撤退した。何年もかけて築き上げてきた市場と生産拠点は、ウクライナ侵攻という痛ましい事態の下、わずか数ヶ月ですべては失われてしまった。
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①新興国
「新興国」の定義は、時代とともに移り変わるものだ。かつては「NIEs(新興工業経済地域)」の対象である韓国や台湾、香港などが新興国と呼ばれていた。だが、韓国のヒョンデは2022年度に世界第3位の販売台数を誇る自動車メーカーへと成長している。また、台湾は世界屈指の半導体大国だ。香港は中国本土との関係を強く打ち出すようになった。この先、注目されるのは「BRICs」と呼ばれているブラジル、ロシア、インド、中国あたりだろう。中国製EVの大躍進から分かるように、これらの地域の発展には目を見張るものがある。次の注目は「VISTA」と呼ばれるベトナム、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、パキスタン、イラン、エジプト、トルコ、ナイジェリア、メキシコの11カ国だ。高度成長を続けており、これからの発展に期待がかかっている。
自動車メーカーの東南アジアシフト進む
日本の自動車メーカーは、貿易摩擦の解消も視野に入れ、’80年代から北米の生産を開始。近年は中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)(※②)の生産が活発化している。特にタイでは、タクシン元大統領が「タイをアジアのデトロイト(※③)にする」と発言。関税を引き下げ、法人税の免税などもあり、日本メーカーの工場が積極的に進出。唯一、進出していなかったスバルも、2019年から工場を稼働させた。
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②(東南アジア諸国連合)
東南アジア10カ国の経済・社会・政治・安全保障・文化に関する地域協力機構。現在の加盟国はインドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアの計10カ国。
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③デトロイト
アメリカ合衆国ミシガン州南東部にある都市。もともと馬車や自転車製造が盛んだったが、1899年に自動車工業が興ると、1903年にヘンリー・フォードが量産型の自動車工場を建設。「T型フォード」のヒットとともに全米一の自動車工業都市として発展した。後にゼネラルモーターズとクライスラーも誕生。全盛期には人口の約半数が自動車産業に関わっていた。
このほかインドネシア、フィリピンなどにも工場を構えるメーカーも多く、トヨタは商用車のタウンエース&ライトエースをインドネシアから輸入する。
ASEAN諸国はクルマの需要も多く見込めるため、今後もアジアシフトは続きそうだ。
ただしメーカーの開発者は、「経済力の向上に併せて人件費も高まってきた」と言う。従来のように「アジア諸国で安く造らせて、低価格で売る」という図式がいつまで続くは不明だ。
■2018年に三菱はタイのレムチャバン工場にて、500万台の生産を記録。セレモニーを行った
●2022年国内自動車メーカー海外依存度
例題/2021年に世界でもっとも新車を販売したのは?
①トヨタ ②フォルクスワーゲン ③ルノー日産三菱グループ ④GM(正解=①)