【煽り運転の厳罰化・高齢社運転の問題】ヘリでの取り締まりも行われる煽り運転・社会全体の課題である高齢ドライバー対策
『ここをチェック』
★ドライブレコーダーの普及で煽り運転が顕在化
★高齢ドライバーによる悲惨な事故が増加
★法規や安全装備はこれらを減らせるか?
ヘリでの取り締まりも行われる煽り運転
2017年6月に神奈川県内の東名高速道路上で起きた煽り運転を発端とする夫婦死亡事故が、世の中に煽り運転の存在とその怖さを知らしめた出来事だったと言える。
このケースでは、パーキングエリアの出口付近に道をふさぐように止まっていたクルマに注意をしたところ、そのクルマに煽り運転を受け、クルマを降りて本線上でもめているところに、大型トレーラーが突っ込んで夫婦が死亡した。
この事件がきっかけとなり、煽り運転の被害を受けた際の証拠を残すことの重要性が認知され、ドライブレコーダー(※①)が一気に普及。その結果、動画投稿サイトやテレビのワイドショーなどで煽り運転の動画が多く取り上げられることになり、社会的にも大きな問題として扱われるようになる。
補足情報
①ドライブレコーダー
航空機のフライトレコーダーは、飛行データとコクピット内の会話を記録するもので、これにヒントを得て開発された。ただし記録されるのは、車外や車内の映像と会話であり、走行データは記録されない。また、多くのクルマはEDR(イベントデータレコーダー)と呼ばれるメモリー機構が、エアバッグECUなどに内蔵され、事故時の加速度などが記録される機構を備える。従来、ドライブレコーダーといえば社外品が一般的であった。その後、ディーラーオプションで設定されるようなってきたという経緯を持つ。しかし、トヨタはクラウンからADASシステムのカメラの映像をドライブレコーダーの映像として記録することを開始。今後はドライブレコーダーが標準装備されるようになるだろう。そうなるとEDRのデータ解析と合わせて、保険金支払い時の過失相殺の考え方も変わってくる可能性もある。
従来、煽り運転については車間距離不保持違反などが適用されてきたが、2020年6月に道路交通法が改正され、「妨害運転罪」が創設された。
これにより、2020年6月30日から、他の車両等の通行を妨害する目的で、急ブレーキ禁止違反や車間距離不保持等の違反行為(下記参照)を行うと「妨害運転罪」が適用されること可能性が出てきた。
「妨害運転罪」が適用されると、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、違反点数25点、運転免許の取消し(欠格期間2年、前歴や累積点数がある場合には最大5年)が科せられる。さらに著しい交通の危険を生じさせた場合は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金、違反点数35点、運転免許の取消し(欠格期間3年、前歴や累積点数がある場合には最大10年)となるなど、かなり厳しい処分が科せられることになった。
一部の県警ではヘリコプターを使っての取り締まりを行うなど、煽り運転については厳罰化と取り締まり強化が加速度的に進んでいる。
■煽り運転を受けたときのための証拠保全は大切。また、煽り運転を受けないためには、周囲の交通情報に注意しながら走る必要もある。
社会全体の課題である高齢ドライバー対策
高齢者の運転についてはかなり前から問題視されて来た。高齢者講習は1997年から開始された。当初は75歳以上に義務付けであったが、2001年からは70歳以上に引き下げられた。2017年からは、75歳以上の場合、高齢者講習に加えて記憶力や判断力の状態を検査するための「講習予備検査(認知機能検査)」を事前に受けることになった。
このように免許制度が厳しくなる一方で、高齢運転者の事故について、世間での注目が高まる。じつは免許人口10万人あたりでの交通死亡事故の第一当事者に高齢者が多いわけではないが、高齢者の事故は「運転や判断ができない状態で運転した」という見方をされることが多く、またマスコミも高齢者の事故をセンセーショナルに報道することもあり、注目度は高まるわけだ。とくに2019年に起きた東池袋自動車暴走死傷事故は、加害者が通商産業省(現経済産業省)の技官であったことなどが影響し、マスコミで大きく取り上げられた。この事故に関連して、高齢な芸能人が免許の返納を行うことが報道され、一般人の間でも免許返納が加速したと言われている。
一方、クルマがないと普段の生活に困る人も多く存在するのも事実。自動車メーカーは、いわゆる自動ブレーキの装着車種を増やすとともに、コストダウンにも余念がない。また、高齢者の事故ではペダル踏み間違いに起因するものが多いということで、ペダル踏み間違え時の急発進防止システムの装備も進んでいる。
さらに自動車メーカーやサードパーティでは後付けのペダル踏み間違い装置の開発&販売が進んでいて、取り付け可能な車種が限られるものの既存車種で踏み間違い防止機能が使えるようになってきている。
政府もサポカー補助金(※②)という制度を開設。高齢者が対象車種を購入する場合に、補助金を交付することで普及を後押ししている。
2023年1月から6月の上半期、全国の交通事故死者数は2022年同期より24人増の1182人になった。2013年以来、死者数が10年ぶりに増加している。歩行中の事故による死者で多いのは65歳以上の人だ。また、75歳以上の高齢運転者と飲酒運転による死亡事故も増えた。懸念されているのはトラックドライバーだ。少子高齢化が進んだこともあって日本ではトラックドライバーのなり手が少なくなってきている。ドライバーの多くは、高齢者となりつつあるのだ。何も対策を取らないと、輸送能力は2030年度には34%も不足すると見られている。
しかも物流業界では2024年4月から労働規制の適用が始まり、残業時間の上限は年960時間に制限されることになった。これが「物流の2024年問題」だ。今でもドライバーが足りないと言われているのに、規制が強化されれば運送事業に関わるドライバーのなり手は大幅に減ってしまうだろう。その対策が急務となっている。
若手ドライバーの確保に向けて、国交省はトラック業界の魅力を訴求したサイトを立ち上げた。また、流通業界も働き方改革に乗り出している。早く着いても、荷主の都合でドライバーが倉庫や工場の前で待たされるケースが多く、これが長時間労働の大きな原因となっているのだ。労働環境の改善が急がれているが、なかなか改善されない。効率を上げるなどの技術的なアプローチに加え、運送業界が魅力的な存在になるために荷主や消費者が意識改革をしないと、この問題の解決は難しいだろう。
補足情報
②サポカー補助金
サポカーとは自動ブレーキを装備するクルマ、サポカーSとはサポカーに加えてペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載するクルマのこと。65歳以上のドライバーが使うクルマが対象で、サポカーSの場合新車登録車で10万円、新車軽自動車で7万円、中古車で4万円の補助金を交付。サポカーの場合は6万円、3万円、2万円となる。また後付けのペダル踏み間違い急発進抑制装置等も対象で、障害物検知機能付きだと4万円、単体だと2万円が補助される。
■高齢化社会になって高齢者の移動方法確保は、大きな問題。高齢者自身が運転することも含めて、安全性を確保する必要がある。
例題/各自動車メーカーが力を入れる新しいカーリース方式を何という?
①サブスクリプション ②サブリストラクション ③サブリミナル ④サブタイム(正解=①)